アメリカ歴史学会(AHA)、全米規模で歴史学専攻学生のコア・コンピテンシーと学習成果を示す文書を発表

2012年8月30日にアメリカ歴史学会(AHA)は、かねてから進めていたTuning Projectの文書“History Dicipline Core”を公開した。

Tuning Projectは、全米規模で歴史学専攻学生のコア・コンピテンシー(歴史学を学ぶと何ができるのか)と学習成果(歴史学専攻学生は何ができれば歴史学のスキルと考え方を表に出すことができるといえるのか)の指針、レファレンスポイントを構築するプロジェクトである。文書は、プロジェクトを進めてきたAHA教育部会のメンバーでコロラド大のAnne Hyde氏らがまとめている。

文書の構成は、序文に始まり、Part1で歴史学の営みについて定義づけ、次いでPart2の前半でコア・コンピテンシー10項目、後半で学習成果21項目を示すものである。(具体的な中身は原文を参照のこと。)

文書の序文でHydeは、歴史の教育と学習に関するあらゆる議論は教員の主導で行われるべきとの考えに基づき、文書を作成するにあたって国内70以上の関係機関との議論を行ったとしている。またこの文書について、大学の歴史学部や関係部局内での議論を喚起するレファレンス・ポイントとしてのものであり、高等教育における歴史学の本質や歴史学専攻の学生が身に着ける知識やスキルについてステークホルダーとのコラボを始めることに狙いがあるとしている。

コア・コンピテンシーと学習成果を見てみた感想として、大体予想がつくものだがまとめるにあたって苦労したんだろうな、というところ。

特に目を引いたのが、コア・コンピテンシーの10項目目のbにある、「ある特定の議論、語り、一連の考えについてコミュニケーションするのに最も適したメディアを考えることができる」という一文。発信についてちゃんと媒体を考慮せよと、意識している点が興味深い。

政治言説における歴史の利用/乱用を検証するNew York Timesのシリーズ記事“Historically Corrected”

アメリカ大統領選の演説等の政治言説における歴史の利用あるいは乱用について、史料と突き合わせてその内容を検証する、New York Timesのブログでのシリーズ記事“Historically Corrected”。これは、ワシントンカレッジの C. V. Starr Center for the Study of the American Experienceによって行われている共同プロジェクトである。

シリーズの最初の記事は2012年7月7日のもので、オバマの街頭演説でしばしば登場するアメリカのインフラ建設のバラ色な解釈を取り上げている。ここでは、要するに、オバマが鉄道やハイウェイを「皆で一緒に作った」と唱えているのに対して、執筆者であるGoodheartとManseauは国民統合として捉えられるようなものではないのではと指摘しているようだ。シリーズ記事はその他に2つほど出ている模様。

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ツイッター等で研究者個人が政治家の発言の内容を歴史学的にみてどうこう…、というのはたまに見かけるが、それをメディアの中で行っているという点については興味深いと思う。

ケンブリッジ大の人文社会科学系の若手研究者向けのデジタル技術自己研修プログラム“DH23Things”

ケンブリッジ大学の人文社会科学系研究センターCRASSSH所属の Dr Helen Websterらによる人文社会科学系若手研究者向けのデジタル技術研修プログラムが公開された。このプログラムは、ケンブリッジ大のDigital Humanities Networkのプロジェクトの一つという位置づけで、Webster氏を中心に図書館員等のチームによって行われる。

正式には9月10日から始まるこのプログラムは、Digital Humanities関連のツールや技術の使い方を毎週ブログで提供するというもの。対象は、ケンブリッジ大の人文社会科学系の若手研究者で、彼ら/彼女らは自発的にブログの内容を読み進め、その中に用意されている小さめなタスクをこなしていく。

プログラムは3つのモジュールに分かれており、10月から12月のミカエル学期にその一つめのモジュール“ Your Online Presence: Promoting,  Networking and Communicating”が公開される。最初のモジュールの中身は、ブログの作り方、オンライン上でのアイデンティティ、計量書誌学、ネットワーク形成①②、オンラインコミュニケーション等となっている。最初のタスクはブログの作成のようで、その後のタスクもそのブログで公開することが求められているようだ。

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実際のモジュールの内容まで公開されるのかどうかはわからないが、もし可能ならばぜひ参加したいものだと思う。こういうフットワークの軽そうなプロジェクトはいいですな。

デジタル時代にオーラルヒストリープロジェクトを進めるために参照したいウェブサイト“Oral History in the Digital Age”

“Oral History in the Digital Age”というウェブサイトがこのたび公開された。

このウェブサイトは、オーラルヒストリーのプロジェクトを進める際に、それぞれの場面で関連するデジタル技術の最新情報を提供するというもので、このウェブサイトとWikiの2つが用意されている。

ウェブサイトでは、オーラルヒストリーにおけるレコーディングやアーカイビング、プロジェクトの発信・普及について、そのプロが書いたエッセイを提供している。現状では70のエッセイが寄せられているようだ。また、サイトでは、“Thinking Big”という、やはりオーラルヒストリーのプロのインタビュー動画も提供されている。

Wikiの方は、オーラルヒストリープロジェクトのベストプラクティスや発信・普及に参考になるサイトのリンクが提供されている。

アメリカの奴隷解放150周年記念情報サイト“Emancipation Resource Portal”

アメリカの人文科学基金(National Endowment for the Humanities:NEH)による奴隷解放150周年記念ウェブサイト“Emancipation Resource Portal”。

NEHは今年2012年9月17日のNational Constitution Dayにある一連のイベントのホスト役を務めるとかで、このポータルサイトでは、そのイベント情報(9月17日にスミソニアン博物館で開催される南北戦争研究者のディスカッションの動画配信や、一次史料をつかった高校・大学生のコンテスト)と、インターネット上にある人文学関係の教育リソースをまとめた“EDSITEment”から、奴隷解放に関する資料等を提供している。

南北戦争や奴隷制の研究者には有用かと。

主にイベロアメリカ圏のオンライン歴史学関係サイト等を紹介する“Red-Historia”

インターネット上の様々な歴史学関係のプロジェクトの概要を集めることを目的とした“Red-Historia”。アルゼンチンのサン・マルティン国立大学歴史学教授Luis Alberto Romero氏が運営している19,20世紀アルゼンチン政治史サイト“historiapolitica.com”における、プロジェクトの一つという位置づけにある。

半年に一度の「刊行」されるこのサイトでは、史料のリポジトリや、オンラインプロジェクト、雑誌サイトや教育リソース、機関ウェブサイト等を対象に取り上げ、各サイトの簡単なまとめレポートを収録している。また、デジタルヒストリー関連のツールの紹介等も掲載している。

今のところ、「デジタルリポジトリと人文学」を特集テーマとした第2号が公開されたところ。(ちなみに、2011年12月「刊行」の創刊号は、「オンライン上の200周年」)

紹介されているサイトは、必ずしもDHのプロジェクトに限らないようだが、イベロアメリカ圏を中心に歴史学関係サイトを紹介してくれているのはありがたい。

アフロアメリカンの歴史と史料を保存・発信する地域研究情報プロジェクト“Proyecto Afrolatin@”

アメリカ大陸およびカリブ海域のアフリカ人の子孫の歴史や文化、経験を、デジタル技術を使って保存し、また、発信するプロジェクト“Proyecto Arolatin@ / The Afrolatin@ Project”。2005年にCUNYのQueens Collegeが始めたもののようだ。

「公的な歴史」から排除される彼ら/彼女らの歴史や文化、史料の保存を行い、、グローバルな発信を通して彼ら/彼女らに対する「気付き」を促していくということを目的としている。

もちろん研究も行っていて、ジャーナルを刊行したり、リソース集を作ったりしている。また、アフロアメリカンの声を録音して収集するようなことも行っているようだ。

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研究成果の発信だけを目的としたものではない、という点はいろいろ考えたいところ。

6世紀後半から11世紀後半までのイングランドのプロソポグラフィデータベース

6世紀後半から11世紀後半までの、記録に残っているイングランド全住民に関するプロソポグラフィデータベース”Prosopography of Anglo-Saxon England (PASE)”。

King’s College LondonのDepartment of History とCentre for Compuing in the Humanities(現、Department of Digital Humanitiesだろうか?)、そしてUniv. of CambrigdeのDepartment of Anglo-Saxon, Norse, and Celticの共同プロジェクトで、2000年にはじめられた。現在は2010年8月に公開されたバージョンとのこと。

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この時代と地域の研究者には助かるものだと思うのだが…。中世史でもイングランド史でもないしな。

「人文学がなぜ重要なのか」をシンプルに伝えるキャンペーン“Humanities, Plain and Simple”への協力者募集中

人文学がなぜ重要なのか、自分にとってなぜ問題なのかについて、平易に、そして、シンプルに伝えようというキャンペーンへの協力が呼びかけられている。

このキャンペーン“Humanities, Plain and Simple”は、ITやニューメディア、デジタルヒューマニティーズの技術や発想を基に、人文学のアドヴォカシーのためのプラットフォームやリソースの提供を目指す4Humanitiesが行っているもの。

キャンペーンでは、人文学がなぜ重要なのか、なぜ自分にとって問題なのかをテーマに、文章や動画、音声、写真、絵といった形式での投稿が呼びかけている。書き方としては、真面目、皮肉に満ちてもいい、あるいは短くても、数ページにもわたっていい、特定のことだけでもあるいは人文学全般に関してでもよいとされるが、ただ一つ、日常使う言葉で多くの人に伝えるつもりで書くことが条件となっている。

キャンペーンにはすでに5本の文章が寄せられており、中には4Humanitiesの共同創設者Alan Liu氏による、”Discovery”をテーマにしたものも公開されている。

デジタル技術×文化に関するポータルサイト“Digital Meets Culture”

ビジネスコンサルタントやソフトウェア開発等を手掛けるイタリアのPromoterという企業による、デジタル技術と文化の交差領域に関する情報を提供するポータルサイト“Digital Meets Culture”。サイト運営は、PromoterのGMで、2002年以来イタリアの文化遺産省のアドバイザーなどを行うAntonella Fresa氏ら18名(メイン9名)の共同で行われている。

サイトでは、DH系はもちろんのこと、それよりも広く主にヨーロッパ圏のデジタル文化に関する話題やイベント情報も提供している。DHだけでなく、MLAのネタも広く拾うためには、定期的に眺めておいてもよいサイトかもしれない。