ラテンアメリカからのDHの発信と世界のDHへの貢献

ラテンアメリカのDHネットワークRed-HDが、今年6月から『デジタルヒューマニティーズ叢書』の刊行を発表している。(ちなみに、Redは”赤”ではなく、スペイン語で”ネットワーク”の意味)

今の所3巻分が予定されており、「recepcion, critica e institucionalizacion」「Lengua, texto, patrimonio y datos」「タイトル不明」の3つ。目次を読む限り、グローバルなDHの動向に絡むものが半分、スペイン・ポルトガル語圏の話題が半分程度と考えられる。

http://www.humanidadesdigitales.net/2018/04/11/preventa-biblioteca-de-humanidades-digitales/

また、カナダおよび英語圏で始まったThe Programming Historianをスペイン語訳する活動にもRed-HDは取り組んでおり、この度、翻訳からさらに歩みを進めた形で、Programming Historianのスペイン語版オリジナルコンテンツの募集を呼びかけている。

Red-HDが積極的にスペイン語圏のDHの発信を行い、さらに今年のDH2018がメキシコ・シティで開催され、これにもRed-HDが大きく貢献していることはまず間違いないわけで、世界的なDHへの貢献も顕著である。英語圏以外の動向も、眼を配っておくべきだろう。もちろん、日本を含め、東アジアもまた然り。

 

だが、一方でRed-HDの構成員を見ると、実際はかなりの程度メキシコ国立自治大学(UNAM)の研究者らが担っているように思われる。

筆者は特にRed-HDと繋がりがあるわけではないので、なんとも言えないところであるが、外側から見ている限り、スペインのDH研究者、研究者コミュニティとの連携は、あまり感じられない。Programming Historianのスペイン語オリジナルコンテンツの連絡先に、バルセロナのAntonio Rojas Castroさんのお名前がある程度だろうか。

http://www.antoniorojascastro.com/

 

 

人文学へのデジタル技術の活用の歴史をテーマとしたオーラルヒストリー

人文学へのデジタル技術の活用の歴史、あるいはデジタルヒューマニティーズの歴史をテーマとしたオーラルヒストリー”Computation and the Humanities: Towards an Oral History of Digital Humanities”が刊行されていた。1950年代からのデジタルヒューマニティーズの創成期の方々のインタビュー記録を文字起こししたもの。

思わずAmazonでハードカバーを注文するところだったが、SpringerのサイトでCC-BY-NC 2.5ライセンスで公開されていた。

インタビューの音声記録のほうは、それ自体がDHプロジェクトである”Hidden Histories”で公開されている。
Nyhan, Julianne, Flinn, Andrew.  Computation and the Humanities: Towards an Oral History of Digital Humanities. Springer International Publishing. 2016.

http://www.springer.com/it/book/9783319201696

Hidden Histories

http://hiddenhistories.omeka.net/

Googleとスペイン文化省の協力によるセルバンテス死去400周年記念ウェブ展示“The Routes of Cervantes”

2016年6月8日、Googleとスペイン文化省の共同によるウェブ展示“The Routes of Cervantes”が公開された。セルバンテスの死から400周年を記念したもの。

展示は、スペイン国内の8つの文化機関の所蔵する資料などを使って作成されており、その内容はかなり充実している。

例えば、最初にある”Discover the life” は、ナレーション&史料付きでセルバンテスの生涯を紹介しているし、その他18の展示では、ドン・キホーテの表象やセルバンテスを芸術で表現したもの、ストリートビューで回るセルバンテスの生家等がある。また、展示以外では999件のデジタル資料やいくつか動画も公開されている。

色々眺めていて面白いしためにはなるが、惜しむらくは、各展示に参考文献がつけられていないこと、だろうか(当然、資料の出典はある)。例え、デジタルな資料を多用して見栄えを良くしても、読み手がより深く知り、あるいは裏を取るための手立てを読み手に残しておかないと、どうも不親切なように思えてならない。

まあ、眺めているだけで十分面白いのですが。

“Humanities World Report 2015″におけるデジタルヒューマニティーズの現況

世界の人文学の現況をまとめたレポート”Humanities World Report 2015″が刊行されている。

Poul Holm, Arne Jarrick and Dominic Scott . (November 2014). Humanities World Report 2015 . [Online] Available at: http://www.palgraveconnect.com/pc/doifinder/10.1057/9781137500281.0001. (Accessed: 7 January 2016).

Poul Holm, Arne Jarrick, Dominic Scottの3人による同名プロジェクトの成果で、2014年11月の刊行の模様。紙は有料だが、電子書籍であればCC BYでオープンアクセスとなっている。発行元のPalgraveの紹介は以下の通り。

This book is open access under a CC BY license. The first of its kind, this ‘Report’ gives an overview of the humanities worldwide. Published as an Open Access title and based on an extensive literature review and enlightening interviews conducted with 90 humanities scholars across 40 countries, the book offers a first step in attempting to assess the state of the humanities globally. Its topics include the nature and value of the humanities, the challenge of globalisation, the opportunities offered by the digital humanities, variations in funding patterns around the world, and the interaction between humanities and society. Despite the stereotypical view of humanists as scholars locked away in their ivory towers, the picture that emerges from this report is that they are deeply committed to the social value of their work and appreciate the long-term importance it has for addressing global challenges. The report will be of interest not only to researchers and students in the humanities themselves, but also to administrators and funders.

それで、上にも書かれているが、この中でDigital Humanitiesに一章割かれていたので、内容をかいつまんでメモしておきたい。

章の全体的な流れは以下の4つになる。
①世界におけるDHの研究センター
②DHの研究動向
③DHに対する人文学の研究者からの批判・インタビュー記録
④まとめ

①世界におけるDHの研究センター
ここでは、centerNetをもとに、DHセンターの分布・研究者所在の情報を確認している。
相変わらずの欧米における層の厚さが指摘されている。

②DHの研究動向
DHCommonsのプロジェクトを利用しつつ、DHの研究領域を以下の5分野に分類し、それにかかわる研究プロジェクトを例示している。

(1)Digital collections, archiving and text encoding
(2)Reading and analysing electronic texts
(3)Geospatial and critical discursive mapping technologies
(4)Big Data,’ social computing, crowdsourcing, and networking
(5)3D immersive visualisation environments

(1)はデジタル化・テキスト化(OCR/クラウドソーシング)の話題と、TEIを利用したメタデータ共通化の話題。
⇒ちなみに、ここでは国文学研究資料館の歴史的典籍に関する大型プロジェクトも言及ある(pp.68-69.)。

A major Japanese project is the Integrated Database of Classical Japanese Texts in the pre-Meiji Period. This database of documents from Japan’s pre-1868 era involves the National Institute of Japanese Literature as the core institute. The project proposes compiling a new database with links to bibliographies, images of original manuscripts and transliterated texts.

(2)は電子テキストの読解環境の構築およびテキスト分析研究について
Debates in DHを挙げて、DHコミュニティによる共同読解を指摘。
その他に研究手法として”stylometry”、”content-based analysis”(頻度分析・トピックモデル)、”metadata analysis”をあげている。また、TAPoR・Voyant・Textal・WordSeerに言及あり。

(3)GISのプロジェクト
Hypercitiesを筆頭に多数のGISプロジェクトが紹介され、日本のものとして、「『地域の知』の資源のグローバルな構造化と共有化プラットフォーム」(Global Integration of Regional Knowledge Resources and Intercommunity Platform)も言及されている。

(4)ビッグデータ分析 Mapping the Republic of Letters. Harvesting Speech Datasets等を例示している。

(5)遺跡の3D化等。例示はなし。

③DHに対する人文学の研究者からの批判・DHに関するインタビュー記録
DHに対する批判を次の4つの観点で紹介。
・Reward structures in academia do not recognise digital publication
→これはいわゆるDHの評価問題
・Failure to see how DH applies to some disciplines
・‘Where are the results?’ ‘Show me a project that does something
useful with technology’
・The dark side of DH
→2013年のMLA大会で話題となったDHのダークサイドの問題。

その他、インタビューでは以下のような話題があった。

・伝統的な人文学研究者の情報技術に対する恐れ・無理解
・DHによって伝統的な研究成果とその知識が無価値化されることへの恐れ
これらに対しては、DHに対する懸念は時間が解決するのでは、との指摘も。
・デジタル化そのものに対する期待と恐れ(何を得て、何を失うのか?)
・研究の質に対する懸念
・一方で、DHは共同研究を創出すること、また、リソース・成果へのアクセスの民主化も指摘

④まとめ
章全体の振り返り、要点をまとめている。

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・人文学におけるDHの現在的な位置づけを知るには、良いレポートだといえる。ただ逆を言えば、全体的な議論はほぼ想定内であり、あまり自分にとって目新しい情報はなかった。

・DHのトレンドの5点は妥当。あえて言えば、ゲーム研究も一領域としていれてもよいかもしれないが、それは(5)3D immersive visualisation environmentsに加わるだろうか。

・DHが”H”たる人文学研究にもっと浸透するには、伝統的な人文学研究者とDH研究者との対話の必要性を強調している。伝統的な人文学研究者からのDHに対する懐疑的な見方もあるので、確かにそうだろうと思う。一方で、情報学の研究者らはDHをどのように見ているのだろうかという疑問もある。DHは人文学であって情報学の一領域ではないとか、そういう見解もあるのだろうか?

Libraries & Digital Humanities Special Interest GroupがADHOで承認される (#DH2015)

年1回のDHの世界大会として、今年のDH2015(http://dh2015.org/)がシドニーで開催されている。

その会期中に、世界のDH学会の連合組織であるADHOの新SIGとして、Libraries & Digital Humanities Special Interest Group が承認されたとのこと。

早速メンバーの申請をしてみた。

DH関連と思しき科研新規採択課題(2015年度)

科研費のデータベースに新規採択課題が収録されたので、DH関係のものを探してみた。 検索は以下の通り行った。

  • 研究分野:図書館情報学・人文社会情報学
  • 研究期間:2015年~新規のみ

結果は59件。そこから、目視でDHと関係と思しきものをリストアップしたのが以下の16件。 もちろん、「図書館情報学・人文社会情報学」以外の分野でもDH関連と思われるものはあるはずであるし、また、タイトルのみの確認に留まるので、DHなのに下のリストから漏れたものや、あくまでDH関連と「思しき」ものでしかない。あくまでメモ的に。

課題名 代表者 研究種目
原史料メタ情報の生成・管理体系の確立および歴史知識情報との融合による研究高度化 山家 浩樹 東京大学・史料編纂所・教授 (60191467) 基盤研究(A)
セマンティック・クロノロジー:時間軸に沿った知識の可視化と利用に向けた基盤構築 関野 樹 総合地球環境学研究所・准教授 (70353448) 基盤研究(A)
「地域の知」のためのデータ寄付・時空間構造化・永続化支援プラットフォームの構築 有川 正俊 東京大学・教授 (30202758) 基盤研究(B)
アンティークステレオ写真をディジタルアーカイブし活用するための基盤技術 清水 郁子 東京農工大学・工学(系)研究科(研究院)・准教授 (70312915) 基盤研究(C)
サイエンスミュージアムにおけるオープンデータ利活用基盤に関する研究 遠藤 守 名古屋大学・情報科学研究科・准教授 (90367657) 基盤研究(C)
翻刻・本文校訂を前提としないクラウド型古文書画像検索システムに関する研究 中田 充 山口大学・教育学部・教授 (60304466) 基盤研究(C)
ロンゴロンゴのデジタルアーカイブと言語情報の抽出 山口 文彦 慶應義塾大学・理工学部・研究員 (60339124) 基盤研究(C)
訪日外国人旅行者による地域歴史資料を活用した情報発信に関する研究 沢田 史子 北陸学院大学短期大学部・准教授 (20456429) 基盤研究(C)
Framework for Studying Language Evolution using Large Scale Data ADAM Jatowt 京都大学・情報学研究科・准教授 (00415861) 挑戦的萌芽研究
論文著者に着目した大規模書誌分析に基づく科学論文生産構造の解明 川島 浩誉 文部科学省科学技術・学術政策研究所・研究員 (40649076) 挑戦的萌芽研究
「昭和天皇実録」からの人脈抽出による20世紀の日本寡頭政の政治経済史研究 増田 知子 名古屋大学・法学(政治学)研究科(研究院)・教授 (10183104) 挑戦的萌芽研究
日中比較文学の影響分析における定量的方法の研究 吉村 誠 山口大学・教育学部・教授 (70141116) 挑戦的萌芽研究
作家の計量分類による日本近現代文学史の構築 高橋 寿美子 大妻女子大学・助手 (40579182) 挑戦的萌芽研究
市民コミュニティのためのオープンデータ活用推進に関する研究 浦田 真由 名古屋大学・国際開発研究科・助教 (70634947) 若手研究(B)
「語り」の蓄積からコミュニティの物語を出力する地域デジタルアーカイブの構築と運用 松本 早野香 サイバー大学・総合情報学部・講師 (90575549) 若手研究(B)
旋律と歌詞の計量的分析による日本民謡の地域的特徴の解明 河瀬 彰宏 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所・研究員 (80739186) 若手研究(B)

ヨーロッパ各国におけるDH史の現状を論じたエッセイシリーズが公開中

ドイツの歴史学コミュニケーションプラットフォームH-Soz-Kultが、2014年10月22日から、”The Status Quo of Digital Humanities in Europe”と題したエッセイシリーズを公開している。

DHが国際的にブームとなり国境を越えた動きを見せている一方で、DHの基盤は各国ごとになっている現状もあるとして、本エッセイシリーズでは、ヨーロッパ各国ごとのDHの歴史を紹介している。取り上げられている国は、スウェーデン、ポルトガル、オランダ、ギリシア、ロシア、スイス、スペイン、スロヴェニア、ノルウェー、ドイツの10か国で、これを書いている11月26日現在では、前半の7か国、スペインまでが公開されている。

シリーズの編集者は、寄せられたエッセイから次の2点を結論として指摘している。

  1. ナショナルなDHプロジェクトは、古くからあるノンデジタルな研究プロジェクトとインフラにしばしば接続しているが、必ずといってよいほどEUの研究インフラとあっさり結びついている。
  2. 国による違いはあれど、パラレルな発展が確認できる。

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イベリア半島の2か国ぐらいは読んでおきたいが、その紹介は別稿に譲りたい。ここでの感想として、次の3点をメモしておく。

・ヨーロッパ各国の動きは見えにくいので、良企画だと思う。
・しかし、英仏伊、特にDHを牽引しているといってよいイギリスがないのが残念。
・また、各国ごとのDH史という視点のほかに、時代別でのDH史という視点が歴史学のポータルサイトとしてはあってもよいと思う。

中世スペインにおける宗教的共存と対立を3D空間で学ぶVirtural Plasencia

キリスト教徒・ムスリム・ユダヤ教徒の共存と対立は、中世スペイン史における一つの重要なテーマだが、これをヴァーチャルに3D空間で再現したVirtural Plasenciaが、10月22日に公開された。

これは、アメリカ、スイス、スペインの3か国、計9大学の研究者による”Revealing Cooperation and Conflict: An Integrated Geovisual and Transcription Project for Plasencia, Spain (circa 1390-1450)”というプロジェクトの成果で、テキサス大学オースティン校の中世地図資料を扱ったDHプロジェクト “MappaMundi”の一プロジェクトに位置づけられている。

Virtural Plasenciaでは、プレーヤーはエストゥレマドゥーラにある一都市プラセンシア(Plasencia)の15世紀(1416~1455)の街並みを散策しながら、様々なトピック――例えば当時のワイン製造等――を通じて、宗教的共存と対立を学ぶことになる。プラセンシアは、その後のスペインそしてヨーロッパを形成する上で重要な諸々のイベントに関わることから、この都市が同プロジェクトで選ばれたようだ。

興味深いのは、3D空間で紹介されるトピックの”作成の仕方”である。紹介される史実は、(当たり前のことだが)史料に基づいて記述されており、表示される解説文でも史料の引用が多数行われている。これらの史料は、プラセンシアの大聖堂や市の公文書館の所蔵資料だが、特に大聖堂のアーカイブズの利用は指定の一週間に数時間程度のもので、ノンビリ読む間もない。そのためこのプロジェクトでは、2014年夏と秋に開講されたMOOCのコース”Deciphering Secrets: Unlocking the Manuscripts of Medieval Spain”の受講生をcitizen-scholarsとして、デジタル化史料の翻刻と分析に参加させるという手法を採ったという。

現在のプラセンシアの大聖堂前

 

既に同プロジェクトはver.2.0の開発に着手しており、今後は、散策できるエリアの拡大やインターネット教育リソースの提供機能、ソーシャルメディアとの連携、そしてプレーヤーをアバターで表示させる機能を追加する予定とされている。

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誰もいない空間を歩き回るのは、少し、いやかなり違和感がある。また、一トピックで読む解説文が長すぎて、3Dにした意味があまり感じられない。とても興味深いかつ意義のあるプロジェクトだと思うので、今後の改善に期待したい。

 

 

 

Digital HumanitiesとDigital Historyの差異に関する昨今の議論に思う

ジョージメイソン大学のRRCHNM(Roy Rosenzweig Center for History and New Media)の新センター長Stephen Robertsonが、5月23日に、”The Differences between Digital History and Digital Humanities”という記事をブログに公開している。

「デジタルヒューマニティーズ/デジタルヒストリーの動向」というタイトルを掲げ、せっせと原稿を書いているものとしては反応せざるを得ないので、ひとまず以下にその概略をまとめておきたい。

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記事のテーマは、昨今のDHum(Digital Humanities)の議論におけるDHis(Digital History)の不在について。Dhumは専らdigital literary studiesとなっているのではないか。

大小さまざまな歴史学会においてデジタル技術の活用は注目されている。とはいえ、皆が使いこなせているわけではない。

使いこなしたうえでのDHisに議論を拡大していきたいものの、”DHum”としての成果では訴えるものがない。なぜか。その理由は、DHという言葉が分野横断的であるがゆえに助成金獲得に役立つ一方で、個々の専門のコンテクストからいえば理解しにくいものであるから。

では、DHum(Digital Literary Studies)とDHisとの違いは何か。

1つ目は、DHisでは、オンラインでの史料の提供や発信が主。だが、DHumから見れば、それはむしろオーラルヒストリーや民俗研究、パブリックヒストリーの領域とみなされる。もちろんDHumではないというわけではないが、あくまでDHumの中心からは外れている。

2つ目は、DHisはDHumで盛んに行われているテキストマイニングやトピックモデルではなく、デジタルマッピングに熱心である。もちろん、DHumでもマッピングの研究はあるし、DHisでもテキスト分析は行われているが。

歴史研究者がテキストマイニングやトピックモデルをしない理由の一つとして、機械可読可能なテキストの不在、あるいは少なさがあげられるのではないだろうか。

この問題については、ことし11月に開催予定のRRCHNMの20周年カンファレンス(2014/11/14-15)で取り上げるので、乞うご期待。

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その後、上記記事に対して、カリフォルニア大バークレー校の博士課程学生であるScott Paul McGinnis (馬吉寧)が反論を寄せている。色々な論点があり、まとめにくいが、ざっくりまとめると以下の通り。

 

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DHの中に歴史学はすでに含まれている。DHと歴史学に不協和音があるとすれば、その問題は歴史学の領域の中にデジタルなるものが入り込むのに時間がかかっている、ということ。結局、DHumと歴史学を分けて考えるのは間違いではないか。

Morettiとそのシンパが、DHumを20世紀の文学研究のあり方を変えるものと捉えることで、Distant Reading=DHumとの理解が広まっている。DHumは幅広い概念であり、Distant ReadingはDHumの一部に過ぎないにもかかわらず、DHum=Distant Readingとの理解から、DHumが文学研究中心であるかのように理解されているのではないか。
歴史学やその他領域がそれぞれのDHとするのではなく、DHの成果の共有が重要である。したがって、DHisを否定的に定義するのではなく、「歴史家は何をしているのか、それをデジタルなるものはどのように助けるのか」が問われるべきである。 云々…

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以下からは、現時点での感想をメモとしてまとめておく。

・ Robertsonの指摘するDHisとDHumの差異は感じているが、「デジタルヒューマニティーズ/デジタルヒストリーの動向」では、DHis含めDHum研究者の議論と反響を参考に、(図書館情報学に片足を突っ込みつつ)歴史学の立場から見て「面白そう」というものを、なるべく幅広く取り上げるように意識している。

・DHumは人文学という広大な領域を方法論的観点から包含する研究領域であると理解しているので、自然、DHisもDHumの中に含まれていると認識している。だが、人文学の諸領域でそれぞれ研究手法や考えが異なる以上、DHumとDHisで力点が異なるのは当然である。また、DHumという大きな傘が、DHumの成果の共有という点で重要である一方、個々の領域での深化という点では今後弊害になるかもしれないとも考えている。

・Scott Paul McGinnisのDisitant Readingの件は少々乱暴な印象を受けた。2000年以前から電子テキスト化の進展ゆえにDHumの主戦場が文献学や文学領域となり、史資料の検索データベースやデジタル化(≠テキスト化)の進展から、歴史学はDHに目を向けるようになったのではなかろうか。(というのも乱暴な議論だが、とりあえず感想なので書きとめておく。)

・歴史研究者がデジタル技術の活用に及び腰なのは、「どう捉えてよいかわからない」点にあるのでは。研究者にとって、DHisは新しい大きな可能性があるような気がしつつも、自身が抱えている問いと意義の上にそれが位置づけられていないので、評価の仕様がないのではなかろうか。とくに史資料のデータベースや史料のデジタル化は研究上大いに役立つものだが、歴史学の「本質」ではなく、「研究環境」として捉えられるであろうし。

Scott Paul McGinnisが以下のように述べているが、

In general, the best approach would be a combination of all available methods of research and discovery; in particular cases, the approach should be selected based upon the nature of the questions and sources involved.

これには自分も同意見である。個々の研究者の問いにDHisが位置づけられることで、DHisが「普通」となると思うが、それは結局、先ほど述べたように、DHum全体との疎遠化をもたらすと思う。

・ちなみにだが、スペインのDHisの研究者であるAnaclet Ponsが、自身のブログでRobertsonと Scott Paul McGinnisのブログ記事をスペイン語訳で紹介している。

 

 

スペイン・ポルトガル語圏のデジタル人文学・社会科学の現状をまとめたマップ”Atlas of Digital Humanities and Social Science”が公開

スペイン・ポルトガル語圏を中心にした、デジタル人文学・社会科学に関する研究者・研究センター・研究プロジェクトのマップ”Atlas of Digital Humanities and Social Sciences”が、Day of DH 2014の開催にあわせ、2014年4月8日に公開された。

 

Atlas of Digital Humanities and Social Science

 

これは、グラナダ大学のプロジェクトGrinUGR(Collaboratory for digital cultures in social sciences and humanities)と、2013年6月のDia de HD(スペイン語圏版DHの日)を発端に開始されたElika Ortega、Silvia Gutierrez両氏によるプロジェクトMapaHDとの共同プロジェクトとしてのものである。

この世界地図には、118名の研究者、36件のプロジェクト、14のセンターと10件のリソースがマッピングされている。収録データは、ウェブアンケート、人づての情報収集、Twitterのリスト、プロジェクト・センターのウェブサイトに基づくものという。

特徴としては、非英語圏であるイベロアメリカ圏を中心にしていることはもちろんのこと、DHのみではなくデジタル社会科学の領域も含めていること、それらの収録データをオープンデータとして公開していること等が挙げられている。

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少し見てみた感想としては、
・マッピングによる表現方法は、現在の研究状況の広がりを示すうえでは有効な手法だと思う。だが、歴史学の研究者としては、研究プロジェクトがどの時代を対象にしているのかが伝わりにくくなると思うので、タイムラインもあればよいのかなと思った。
・実際の研究成果、例えば論文等にもリンクさせていると、Dialnet等で調べる手間が省けるだろうと思う。

とはいえ、ちょうどスペインのDHについて論文を書いているところなので、積極的に活用したい。