中世スペインにおける宗教的共存と対立を3D空間で学ぶVirtural Plasencia

キリスト教徒・ムスリム・ユダヤ教徒の共存と対立は、中世スペイン史における一つの重要なテーマだが、これをヴァーチャルに3D空間で再現したVirtural Plasenciaが、10月22日に公開された。

これは、アメリカ、スイス、スペインの3か国、計9大学の研究者による”Revealing Cooperation and Conflict: An Integrated Geovisual and Transcription Project for Plasencia, Spain (circa 1390-1450)”というプロジェクトの成果で、テキサス大学オースティン校の中世地図資料を扱ったDHプロジェクト “MappaMundi”の一プロジェクトに位置づけられている。

Virtural Plasenciaでは、プレーヤーはエストゥレマドゥーラにある一都市プラセンシア(Plasencia)の15世紀(1416~1455)の街並みを散策しながら、様々なトピック――例えば当時のワイン製造等――を通じて、宗教的共存と対立を学ぶことになる。プラセンシアは、その後のスペインそしてヨーロッパを形成する上で重要な諸々のイベントに関わることから、この都市が同プロジェクトで選ばれたようだ。

興味深いのは、3D空間で紹介されるトピックの”作成の仕方”である。紹介される史実は、(当たり前のことだが)史料に基づいて記述されており、表示される解説文でも史料の引用が多数行われている。これらの史料は、プラセンシアの大聖堂や市の公文書館の所蔵資料だが、特に大聖堂のアーカイブズの利用は指定の一週間に数時間程度のもので、ノンビリ読む間もない。そのためこのプロジェクトでは、2014年夏と秋に開講されたMOOCのコース”Deciphering Secrets: Unlocking the Manuscripts of Medieval Spain”の受講生をcitizen-scholarsとして、デジタル化史料の翻刻と分析に参加させるという手法を採ったという。

現在のプラセンシアの大聖堂前

 

既に同プロジェクトはver.2.0の開発に着手しており、今後は、散策できるエリアの拡大やインターネット教育リソースの提供機能、ソーシャルメディアとの連携、そしてプレーヤーをアバターで表示させる機能を追加する予定とされている。

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誰もいない空間を歩き回るのは、少し、いやかなり違和感がある。また、一トピックで読む解説文が長すぎて、3Dにした意味があまり感じられない。とても興味深いかつ意義のあるプロジェクトだと思うので、今後の改善に期待したい。

 

 

 

神聖ローマの重要文庫“Bibliotheca Palatina”がデジタル化で「復活」へ

1386年ハイデルベルク大学設立にまでさかのぼり、30年戦争期後にヴァチカンとハイデルベルクに分かれてしまった、神聖ローマの最も重要な蔵書コレクションであるパラティーナ文庫“Bibliotheca Palatina”が、デジタル化技術で再現されるようだ。

2001年にハイデルベルク大学図書館が当該コレクションのデジタル化を開始し、2012年1月にはヴァチカン図書館も同様にデジタル化に着手したとのことで、これが終われば二つのデジタル化コレクションが再度一つにまとめられ、晴れて「復活」になるとのこと。

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Bibliotheca Palatinaを「パラティーナ文庫」と書くのかはちょっと自信ないが。

6世紀後半から11世紀後半までのイングランドのプロソポグラフィデータベース

6世紀後半から11世紀後半までの、記録に残っているイングランド全住民に関するプロソポグラフィデータベース”Prosopography of Anglo-Saxon England (PASE)”。

King’s College LondonのDepartment of History とCentre for Compuing in the Humanities(現、Department of Digital Humanitiesだろうか?)、そしてUniv. of CambrigdeのDepartment of Anglo-Saxon, Norse, and Celticの共同プロジェクトで、2000年にはじめられた。現在は2010年8月に公開されたバージョンとのこと。

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この時代と地域の研究者には助かるものだと思うのだが…。中世史でもイングランド史でもないしな。

西洋中世関係ポータルサイトMénestrelに、西洋中世学会が参加

2012年2月12日付の西洋中世学会のウェブサイトに、西洋中世関係ポータルサイト「メネストレル(Ménestrel)の日本部門(Lieux et acteurs)を担当することになった、という記事が掲載されている。(文面を見る限り、担当するのは西洋中世学会がなのか、あるいは記事投稿者の田辺氏なのかはよくわからない。おそらく前者か。)

Ménestrelは1997年6月に初会合をもった団体で、インターネット上で中世研究のコミュニティネットワークを形成しようというもの。『中世研究者とコンピュータ』“Medieviste et l’Ordinateur”というジャーナルを母体としているようだ。

Ménestrelは、西洋中世研究に関するオンラインリソースの開発(特にフランス語のリソース)と、インターネット上での中世研究の成果の可視化、学術的な交流の活性化を目的としているとのこと。ポータルサイトには、各国の中世研究の団体一覧とその情報や、中世研究に関するリソース等がまとめられている。

エヴァグリオス・ポンティコス研究のためのDHサイト“Guide to Evagrius Ponticus”

4世紀後半(344-399/400)のエジプトの修道士・神学者エヴァグリオス・ポンティコス(Evagrius Ponticus)研究に役立つウェブサイトがこのほど公開された模様。作成者はJoel Kalvesmaki氏。

彼の生涯や思想の紹介、書き残した史料や参考文献の情報が整理されている。

なお、エヴァグリオス・ポンティコスについては、東大のリポジトリで公開されている下記リンク先の論文が比較的詳しくまとめている。

中世後期のイギリスにおける写本執筆者の筆跡を集めた“Late Medieval English Scribes”

ヨーク大学、オクスフォード大、そしてシェフィールド大による、中世後期の写本執筆者の筆跡を集めたウェブサイト。2007年から2011年のArts and Humanities Research Councilから、“Identification of the Scribes Responsible for Copying Major Works of Middle English Literature”というタイトルで助成金を得て進められた。

ウェブサイトでは、Geoffrey Chaucer、John Gower、John Trevisa、William Langland、Thomas Hoccleveの5名の著作の写本の筆跡をデジタル化して公開している。その数は、写本ページ400画像、文字17,000画像。

誰が写本を行ったのか判明しているものもあるようだ。

Nottinghamshireの荘園資料がThe National Arhivesのサイトで検索可能に

イギリスのUniversity of NottinghamshireやThe National Archives等の支援を受け、Nottinghamshire Archivesが5か月かけて行っていた、Manorial Documents Register(MDR)のうち同地方の資料が、The National Archivesのサイトで検索可能になったようだ。

なお、Manorial Documents Registerは、Nottinghamshireのほか、Wales、Yorkshire、Hampshire等、14の地区の資料が既に利用できる模様。

文書学にデジタル技術を イギリスのDHプロジェクト“DigiPal”

2010年10月から開始された、イギリスのキングス・カレッジ・ロンドンのDigital Humanities学部によるプロジェクト。

デジタル化した11世紀のアングロ・サクソンのマニュスクリプトを使い、デジタル技術を古文書学の分野に応用しようというもののようだ。単にデジタル画像にタグ付けをしていったり、地図やタイムラインを使ったり…というものではなく、提供するデジタル画像に対して、テキスト、そのテキストの置かれた文脈、マニュスクリプトや史料群全体の構造などを結びつけるものという。そしてこれは、これまで文書学の理論面で議論されていたものの、実現は難しいとされていた方法であるという。

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分かるようでよく分からないが、要するに単にデジタル化した画像を見せて、それを利用してもらうのではなく、実際の文書解読作業を画面上で行えるようにしよう、ということなのだろう、と理解しておく。

この手の「ノート」的な機能は、近代史の史料でも使いたいもの。

c.f.

デジタル化マニュスクリプトの研究環境を提供するプラットフォーム”Manuscriptorium”