ヨーロッパ各国におけるDH史の現状を論じたエッセイシリーズが公開中

ドイツの歴史学コミュニケーションプラットフォームH-Soz-Kultが、2014年10月22日から、”The Status Quo of Digital Humanities in Europe”と題したエッセイシリーズを公開している。

DHが国際的にブームとなり国境を越えた動きを見せている一方で、DHの基盤は各国ごとになっている現状もあるとして、本エッセイシリーズでは、ヨーロッパ各国ごとのDHの歴史を紹介している。取り上げられている国は、スウェーデン、ポルトガル、オランダ、ギリシア、ロシア、スイス、スペイン、スロヴェニア、ノルウェー、ドイツの10か国で、これを書いている11月26日現在では、前半の7か国、スペインまでが公開されている。

シリーズの編集者は、寄せられたエッセイから次の2点を結論として指摘している。

  1. ナショナルなDHプロジェクトは、古くからあるノンデジタルな研究プロジェクトとインフラにしばしば接続しているが、必ずといってよいほどEUの研究インフラとあっさり結びついている。
  2. 国による違いはあれど、パラレルな発展が確認できる。

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イベリア半島の2か国ぐらいは読んでおきたいが、その紹介は別稿に譲りたい。ここでの感想として、次の3点をメモしておく。

・ヨーロッパ各国の動きは見えにくいので、良企画だと思う。
・しかし、英仏伊、特にDHを牽引しているといってよいイギリスがないのが残念。
・また、各国ごとのDH史という視点のほかに、時代別でのDH史という視点が歴史学のポータルサイトとしてはあってもよいと思う。

中世スペインにおける宗教的共存と対立を3D空間で学ぶVirtural Plasencia

キリスト教徒・ムスリム・ユダヤ教徒の共存と対立は、中世スペイン史における一つの重要なテーマだが、これをヴァーチャルに3D空間で再現したVirtural Plasenciaが、10月22日に公開された。

これは、アメリカ、スイス、スペインの3か国、計9大学の研究者による”Revealing Cooperation and Conflict: An Integrated Geovisual and Transcription Project for Plasencia, Spain (circa 1390-1450)”というプロジェクトの成果で、テキサス大学オースティン校の中世地図資料を扱ったDHプロジェクト “MappaMundi”の一プロジェクトに位置づけられている。

Virtural Plasenciaでは、プレーヤーはエストゥレマドゥーラにある一都市プラセンシア(Plasencia)の15世紀(1416~1455)の街並みを散策しながら、様々なトピック――例えば当時のワイン製造等――を通じて、宗教的共存と対立を学ぶことになる。プラセンシアは、その後のスペインそしてヨーロッパを形成する上で重要な諸々のイベントに関わることから、この都市が同プロジェクトで選ばれたようだ。

興味深いのは、3D空間で紹介されるトピックの”作成の仕方”である。紹介される史実は、(当たり前のことだが)史料に基づいて記述されており、表示される解説文でも史料の引用が多数行われている。これらの史料は、プラセンシアの大聖堂や市の公文書館の所蔵資料だが、特に大聖堂のアーカイブズの利用は指定の一週間に数時間程度のもので、ノンビリ読む間もない。そのためこのプロジェクトでは、2014年夏と秋に開講されたMOOCのコース”Deciphering Secrets: Unlocking the Manuscripts of Medieval Spain”の受講生をcitizen-scholarsとして、デジタル化史料の翻刻と分析に参加させるという手法を採ったという。

現在のプラセンシアの大聖堂前

 

既に同プロジェクトはver.2.0の開発に着手しており、今後は、散策できるエリアの拡大やインターネット教育リソースの提供機能、ソーシャルメディアとの連携、そしてプレーヤーをアバターで表示させる機能を追加する予定とされている。

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誰もいない空間を歩き回るのは、少し、いやかなり違和感がある。また、一トピックで読む解説文が長すぎて、3Dにした意味があまり感じられない。とても興味深いかつ意義のあるプロジェクトだと思うので、今後の改善に期待したい。