人文学へのデジタル技術の活用の歴史をテーマとしたオーラルヒストリー

人文学へのデジタル技術の活用の歴史、あるいはデジタルヒューマニティーズの歴史をテーマとしたオーラルヒストリー”Computation and the Humanities: Towards an Oral History of Digital Humanities”が刊行されていた。1950年代からのデジタルヒューマニティーズの創成期の方々のインタビュー記録を文字起こししたもの。

思わずAmazonでハードカバーを注文するところだったが、SpringerのサイトでCC-BY-NC 2.5ライセンスで公開されていた。

インタビューの音声記録のほうは、それ自体がDHプロジェクトである”Hidden Histories”で公開されている。
Nyhan, Julianne, Flinn, Andrew.  Computation and the Humanities: Towards an Oral History of Digital Humanities. Springer International Publishing. 2016.

http://www.springer.com/it/book/9783319201696

Hidden Histories

http://hiddenhistories.omeka.net/

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2016年「歴史学関係雑誌論文新着情報」のふりかえり

放置しっぱなしの歴史学関係雑誌論文新着情報のアカウントだが、Twitterアナリティクスを使って、2016年のツイートの様子やフォロワーの反応を調べてみることにした。

そもそもこのアカウントには、
・日本の歴史学関係雑誌論文のすべてを網羅しておらず、そもそもNDLの雑誌記事索引すら網羅できていないということ。
・同じ論文情報を2度ツイートしていたりするので、以下のインプレッション数等は全ツイートで同条件ではない。
というところがあるので注意されたい。
これらをおさえたうえで、以下のような結果となった。

・2016年の総ツイート数 3,248件
・2016年のインプレッション総数 3,409,202件
(*インプレッション数とは、ユーザーがtwitterでツイートを見た回数。)

・インプレッション数の多い上位10ツイートは以下の通り。

 

順位 “ツイート本文” “時間” “インプレッション”
1 “「防空」のジェンダー : 戦前戦後における日本の空襲言説の変容と布置 / 長 志珠絵 https://t.co/qalhH6Xi2w “2016-07-04 00:45 +0000” “9442.0”
2 “太平洋戦争期中島飛行機の機体事業と生産能率 / 佐藤 達男 https://t.co/BFDrMxX4pp “2016-01-18 01:12 +0000” “6910.0”
3 “筧克彦「やまとばたらき(皇国運動/日本体操)」の分析 : 明るき国家の肯定と身体技法 / 西田 彰一 https://t.co/0VviPei3sk “2016-05-15 21:22 +0000” “6140.0”
4 “特集「総力戦とジェンダー」にあたって (特集 総力戦とジェンダー) https://t.co/WjcwOwAC26 “2016-08-08 00:00 +0000” “5486.0”
5 “デジタル時代の歴史学 デジタル歴史学の最新動向 : フランス語圏におけるアーカイブ構築およびコミュニティ形成の事例紹介 / 長野 壮一 https://t.co/QEoir49gaD “2016-01-31 15:28 +0000” “5193.0”
6 “魔女研究の新動向 : ドイツ近世史を中心に / 小林 繁子 https://t.co/ujpuSYjY6q “2016-06-13 01:11 +0000” “5159.0”
7 “西洋史学はディシプリンか : 母国語による近代化の上に成立した世界的にユニークな学問 (特集 他者としての「西洋史学」) / 佐藤 正幸 https://t.co/s6FSELZpgn “2016-12-19 08:15 +0000” “4808.0”
8 “書評 ジェフリー・ハーフ著 星乃治彦・臼杵陽・熊野直樹・北村厚・今井宏昌訳『ナチのプロパガンダとアラブ世界』 / 佐藤 卓己 https://t.co/WkCp393vGF “2016-04-25 13:38 +0000” “4657.0”
9 “近世・部会報告 近世社会と学知 : 古賀侗庵と怪異から (2015年度大会特集号) / 木場 貴俊 https://t.co/GXqW2zWyDx “2016-01-24 14:55 +0000” “4632.0”
10 “満洲事変と日本陸軍の演芸人利用 : 宣伝活動としての慰問団派遣 / 石原 豪 https://t.co/70SFooCID7 “2016-11-13 17:24 +0000” “4547.0”

 

・最後に、エンゲージメント率の高かった上位10ツイートは以下の通り。
(*エンゲージメント率とは、エンゲージメント(クリック・リツイート・返信・フォロー・いいね)の数をインプレッションの合計数で割って算出したもの。平たくいうと、ツイートを見た数に関係なく反応の良かったもの、となるか。)

 

順位 “ツイート本文” “時間” “エンゲージメント率”(%)
1 “七世紀後半における境界の変遷過程 : 国境と評境を中心に (舘野和己教授退職記念号) / 村上 菜菜 https://t.co/S9UcrQ0NVK “2016-03-13 17:20 +0000” 11.09
2 “古琉球期における相続性についての一考察 : 首里系家譜に含まれる逸文記事の分析を中心に / 濵地 龍磨 https://t.co/W9OyY2EnDi “2016-12-12 02:44 +0000” 6.73
3 “近世スウェーデンにおける塩生産の認識 : スウェーデン重商主義者アンデシュ・ノルデンクランツを事例に / 齊藤 豪大: (32):2015.12. P.15-24 . https://t.co/aYeGR2W6Mf “2016-01-24 13:10 +0000” 5.40
4 “古代日本における唐風化政策と祥瑞思想の受容 / 小塩 慶 https://t.co/QNG4anOeEQ “2016-04-24 18:04 +0000” 5.12
5 “コメント : 「帝国」の断絶と持続 (特集 日本宗教史像の再構築 : トランスナショナルヒストリーを中心として ; 帝国日本と民間信仰) / 川瀬 貴也 https://t.co/wAuWaaIJkY “2016-02-07 23:32 +0000” 4.56
6 “制度論的政治史試論 : 4つの制度から考える / 清水 唯一朗 https://t.co/sVaR5d47hd “2016-12-05 11:51 +0000” 4.55
7 “幕末期民衆における「家」・「個人」意識と超越観念 : 菅野八郎の士分化運動を事例として / 青野 誠 https://t.co/yc8ft2HvOR “2016-12-11 23:44 +0000” 4.42
8 “山田耕筰研究の動向と現実性 / 栫 大也 https://t.co/uEz8pxaZNU “2016-02-28 17:03 +0000” 4.33
9 “曹操期の鄴建都の意義 / 木村 佐知子 https://t.co/oiaTDoP7Ns “2016-06-12 20:38 +0000” 4.30
10 “書評 板垣貴志著『牛と農村の近代史 : 家畜預託慣行の研究』 / 野間 万里子 https://t.co/oJ4Wyh8ZPW “2016-02-21 15:59 +0000” 4.08

 

以上の通りです。見逃した方は参考にしてください。

それではどうぞよいお年を。

スペイン国立図書館が研究者向けに活動報告会開催を告知。DHへの支援を鮮明に。

ここ数日、スペイン関係の研究会などのサイトやメーリングリストで、スペイン国立図書館(BNE)から送付された文書の紹介が相次いでいる。

内容は、BNEが来年2月に研究者向けの活動報告会開催を告知するというもの。送付先はスペイン国内だけでなく、日本にあるスペイン関係の研究会も含まれており、この分では世界中の関係機関等に送られているのだろう。

読んでみると、BNEの最近改正された?新規則では、世界の研究機関や研究者らとのコミュニケーションを行い、研究支援センターとしての役割を推進すると定められており、それに基づき、公営企業のRed.esと締結した資料のデジタル化とその利用促進に関する報告が、その報告会では予定されているようだ。そのほか、最近のBNEが進めている大学との提携やサービス改善等も話題に入っているらしい。

だが重要なのは、研究支援の文脈で、特にDHに言及している点だろう。これまでBNEの発信文書ではあまりDHという言葉”Humanidades Digitales”が登場することはなかったが、いよいよBNEもDHに乗り出すのだろうか。

Googleとスペイン文化省の協力によるセルバンテス死去400周年記念ウェブ展示“The Routes of Cervantes”

2016年6月8日、Googleとスペイン文化省の共同によるウェブ展示“The Routes of Cervantes”が公開された。セルバンテスの死から400周年を記念したもの。

展示は、スペイン国内の8つの文化機関の所蔵する資料などを使って作成されており、その内容はかなり充実している。

例えば、最初にある”Discover the life” は、ナレーション&史料付きでセルバンテスの生涯を紹介しているし、その他18の展示では、ドン・キホーテの表象やセルバンテスを芸術で表現したもの、ストリートビューで回るセルバンテスの生家等がある。また、展示以外では999件のデジタル資料やいくつか動画も公開されている。

色々眺めていて面白いしためにはなるが、惜しむらくは、各展示に参考文献がつけられていないこと、だろうか(当然、資料の出典はある)。例え、デジタルな資料を多用して見栄えを良くしても、読み手がより深く知り、あるいは裏を取るための手立てを読み手に残しておかないと、どうも不親切なように思えてならない。

まあ、眺めているだけで十分面白いのですが。

デジタル化一次史料サイトレビュー記事が期間限定で公開 アメリカ歴史学協会の機関誌で

アメリカ歴史学協会(AHA)の機関誌”American Historical Review”(AHR)の2016年4月号(Volume 121, Issue 2)で、”Digital Primary Sources”というレビュー記事が掲載されている。そのタイトル通り、オンラインで無料でアクセス可能なデジタル化一次史料のガイドとして作成されたもので、今後続刊でも同様のリストに掲載するため、クラウドソーシングで情報提供が求められている。

また、AHRの同じ号には Lara Putnamの“The Transnational and the Text-Searchable: Digitized Sources and the Shadows They Cast”というエッセイも掲載されている。

これらは、AHR2016年2月号掲載のデジタルヒストリーのレビュー論文と合わせて、60日間非会員にも公開されており、Putnam等の提起している問題に対するオープンな議論を喚起するのがねらいとされている。

Putnamの要旨(一部)は以下のとおり。デジタル化でテキスト検索ができるようになって、歴史学研究で前提とされた「場所」からの解放が進み、トランスナショナルヒストリーとつながった、というもの。

This essay explores the consequences for historians’ research of the twinned transnational and digitized turns. The accelerating digitization of primary and secondary sources and the rise of full-text web-based search to access information within them has transformed historians’ research practice, radically diminishing the role of place-specific prior expertise as a prerequisite to discovery. Indeed, we can now find information without knowing where to look. This has incited remarkably little reflection among mainstream historians, but the consequences are profound. …(後略)

まだ斜め読みしかできていないので、後で改めてよく読んでおきたい。

1800年以降のスペイン・ポルトガル・ラテンアメリカの出版史ポータルサイトEditores y Editoriales Iberoamericanos (siglos XIX-XXI)”(EDI-RED)が公開

5月5日に、スペイン、ポルトガル、ラテンアメリカにおける19世紀から現代までの出版社(出版者)史に関するポータルサイト”Editores y Editoriales Iberoamericanos (siglos XIX-XXI)”(EDI-RED)が公開された。スペインのCentro de Ciencias Humanas y Sociales (CSIC)の研究プロジェクトGrupo de Investigación Cultura, Edición y Literatura en el Ámbito Hispánico (siglos XIX-XXI) – (GICELAH) と、老舗のと言っていい電子図書館であるla Fundación Biblioteca Virtual Miguel de Cervantesによる。

ポータルサイトは、スペイン、ポルトガル語圏の出版文化を代表する人物や叢書の類を中心に二次情報をまとめたものだが、面白いのは、カタルーニャ語・バスク語・ガリシア語も項を割いているということと、電子出版に関する参考文献もまとめられていることだろうか。

ちなみに、カタルーニャ語の出版の項目でリンクしているPatrimoni d’Editors i Editats de Catalunyaも同じような出版史に関するポータルサイトだが、こちらは、カタルーニャ図書館を中心にカタルーニャの関係機関が作成したもので、EDI-REDと同様の二次情報の他に、作家や出版社のアーカイブズ史料も提供しているようだ。

#前の記事のように本の日/サン・ジョルディの日を調べている身としては、このプロジェクトはずいぶんありがたい。

本の日はなぜ4月23日なのか?

今日4月23日は、ユネスコの定める「世界図書・著作権の日」(World Book and Copyright Day)である。これは1995年にパリで開催されたユネスコ総会で採択されたことによる。

World Book and Copyright Day
http://www.unesco.org/new/en/wbcd

この記念日が4月23日とされた理由は、総会での宣言文で次のように述べられている。

「本総会はミゲル・デ・セルヴァンテス、ウィリアム・シェークスピア、およびインカ・ガルシラソ・デ・ラ・ヴェガが没した同じ日の4月23日を「世界・本と著作権の日」とする考えを採択し、ここに宣言することを勧告する。」
(訳は↓のリンク先の日本書店商業組合連合会のページから)

この「世界図書・著作権の日」の制定は、スペイン側からの提案によるものらしく、セルバンテス、インカ・ガルシラソとスペイン及びラテンアメリカ関係の人物名が記載されているからもそれをうかがい知ることができる。

もちろんスペインでもこの4月23日は、セルバンテスが亡くなった日として、「本の日」(Día del Libro)と定められている。今年は、亡くなった1616年から400年の記念として、スペインでは大々的な催しが一年を通じて開催されているし、セルバンテス関連のデジタルアーカイブもずいぶん登場している。

が、そもそも1926年に本の日が制定された当初は4月23日ではなく別の日だった。察しの良い方なら思いつかれるだろうが、セルバンテスの誕生日とされた10月7日が、本来、本の日だった。

この本の日を定めた1926年2月6日の勅令がなかなか興味深い。2月9日の官報(Gaceta de Madrid)を見ると、Eduardo Aunos労働・商業・産業大臣の解説があり、それは次のように始まる。

「イスパノアメリカの偉大なる諸民族の思想、伝統、そして生を広め表現する不滅にして聖なるものは、スペイン語の図書である…」

  • Real decreto disponiendo que el dia 7 de Octubre de todos los anos se conmemore la fecha del natalicio del Principe de las letras espanolas, Miguel de Cervantes Saavedra, celebrando una fiesta dedicada al libro espanol. Gaceta de Madrid num. 40, de 09/02/1926, paginas 707 a 708. Departamento: Ministerio de Trabajo, Comercio e Industria.
    https://www.boe.es/datos/pdfs/BOE//1926/040/A00707-00708.pdf

そして勅令の第一条では、毎年10月7日を、スペイン文学の王たるミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ生誕の日を記念して、スペイン語の図書の日として祝うことが定められている。続く条文では、アカデミーや大学、学校等での行事開催、図書館における図書購入と整理、地方の県議会による「公共図書館」(biblioteca popular)の毎年の設置、コンクールの開催、本の値引き販売等について記されている。

当時スペインからラテンアメリカへの出版市場開拓が目指されていたらしいので、上記解説のようなラテンアメリカを含めた表現になっているのだろうか。また、「世界図書・著作権の日」の宣言とは異なり、スペイン、あるいはスペイン語という国民性が全面に押し出された書き方になっているし、となるとカタルーニャ(語)やバスク(語)等にとって本の日の扱いは?といった疑問もわいてくる。さらに、各条文で定められた内容の運用実態は、出版史や図書館史、読書史などが絡み合う領域として色々と関心をそそられる。

それらの疑問はさておき、それでは、なぜ本の日は4月23日に改められたのか。

この日付変更もやはり勅令で定められ、1930年9月7日に発せられた。同法解説にはその理由が述べられているが、そもそもセルバンテスの誕生日が10月7日ではなかったかもしれないというのだ。

  • Real decreto disponiendo que la fiesta anual dedicada al libro espanol, establecida por Real decreto de 6 de Febrero de 1926, se celebrara anualmente el dia 23 de Abril, fecha del aniversario de la muerte de Miguel de Cervantes Saavedra; y que en el ano actual se celebre todavia el dia 7 de Octubre. Gaceta de Madrid num. 252, de 09/09/1930, pagina 1442.
    Departamento: Presidencia del Consejo de Ministros
    https://www.boe.es/datos/pdfs/BOE//1930/252/A01442-01442.pdf

セルバンテスが生まれた当時、洗礼を行う日と誕生日の間に日をおかないはずということで、洗礼日の記録をもとに誕生日が10月7日とされたが、どうも実際に生まれたのは9月29日(サン・ミゲルの日)らしいという。また、先行研究によると、9月の学校授業開始に近い時期ということもありテキストばかりが売れてしまうのを避けたいという思惑や、季節的にもあるのほうが望ましかった、という理由も挙げられている。

ということで、セルバンテスの亡くなった日とされた4月23日に移されたという。

ところで、この4月23日は日本では「サン・ジョルディの日」(Diada de Sant Jordi)として知られている(というほど知られていない)。

サン・ジョルディ(聖ジョージ/聖ゲオルギウス)の詳細はほかに譲るが、サン・ジョルディは1456年にカタルーニャの守護聖人とされ、15世紀にはサン・ジョルディのの亡くなった4月23日に愛する人にバラを贈る風習が始まったという。(サン・ジョルディ伝説には竜を殺した血からバラが咲くくだりがあるが、伝説が先か、風習が先か…また、サン・ジョルディの日の行事は連綿と続いていたわけではなく、19世紀における「発見」もあったようだが、それはまた今後の課題)

ともかくも、4月23日のサン・ジョルディの日に「本を贈る」という行為が結びついたのは、以上の通り本の日がサン・ジョルディの日と重なった1931年より後のことということになる。

本の日/サン・ジョルディの日は、その後のどのように結びつき、そしてスペイン第2共和政→内戦→フランコ独裁期→民主化とどのような変遷をたどったか、それに出版・書店・図書館等の各界はどのように参加しどのような恩恵を被り、スペイン国内・ラテンアメリカ等の地域的にもどのような違いがあったのか、そしてユネスコの採択の場ではどのような政治が行われたのか。あれこれとわいてくるこれらの疑問は今後の課題として、それでもやはりわからないのは4月23日が本の日とされ続けている理由である。というのも、現在ではセルバンテスが亡くなったのは4月22日とされているのだから。