歴史学の博士号取得者はその後どのように職を得て何をしているのか アメリカ歴史学協会によるキャリアインタビューシリーズ“What I Do: Historians Talk about Their Work”

アメリカ歴史学協会が“What I Do: Historians Talk about Their Work”という新たな試みを開始した。

歴史学でPhDをとった人が、その後どのように職を得て、どのような仕事をし、仕事の何が面白くまたチャレンジングと感じているのか、そしてその仕事の何が好きかを語ってもらうというインタビュー動画シリーズ。

初回は、米国農務省林野部Chief HistorianのLincoln Bramwellさん。ボランティアの消防士としてそのキャリアを始め、フォレストサービスでの日々の仕事や歴史学を役立たせる手法について紹介している。


ちなみに、このインタビューシリーズは、MLAとのパートナーシップによるもので(確か昨年末に発表のあったもの)、メロン財団の助成を受けて行われている。
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人文系研究者のキャリアの幅を広げ、若手研究者にノンアカデミックキャリアへの意識を向けてもらうためのものだが、同時に人文系研究者がどれほど「社会に貢献している」のかを示す取組みと言えるだろう。

ドクターをとったらあとは研究者になるのみ、という思考を壊すための試みとして評価したい。

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「アメリカとカナダ、イギリスの歴史研究の約75%がヨーロッパと北米を対象にしている」

という結果がでているそうな。アメリカ歴史学協会の月刊誌Perspectives on Historyの2013年5月号に掲載されている、Luke ClosseyとNicholas Guyattらの”It’s a Small World After All The Wider World in Historians’ Peripheral Vision”という記事のお話。これは、アメリカ、カナダ、イギリスの歴史研究者2400人の研究対象地域を調査した結果に基づく。

調査の結果、タイトルに書いた通り、米英加のその3か国の全歴史研究のうち、3/4以上(約75%)がヨーロッパとカナダとアメリカを対象にしていることが分かったという。細かく言うと、51.9%がヨーロッパ、北米が25.4%で、極東史は9.4%しかない。さらに記事では、各地域を占める世界人口の割合と研究の比率を比較してもいる。

3か国それぞれでの研究対象地域をみると、全体的に、アメリカの研究者はその3か国のうちで”比較的”様々な国・地域の研究をしているが、イギリスの研究者は自国の研究をしている割合が高いという。具体的には以下の通り。

・アメリカの研究者の歴史研究の約68%が北米とヨーロッパを対象にしたもの(アメリカの研究者のうち、アメリカ史を研究している人は33.3%)。ただし、アメリカの研究者はイギリスやカナダに比べて中東やラテンアメリカの研究の割合は高い。

・イギリスの研究者の41.2%がイギリスの研究をしている。次に多いのがヨーロッパを対象にしたもので36.12%、アメリカ史は6.14%。つまり、イギリスの研究の84%がヨーロッパとイギリスと北米を対象にしたものという。

・カナダの研究者の26.83%がカナダの研究をしている(アメリカの研究者やイギリスの研究者でカナダの研究者の割合は0.xxというくらい低い。)。ただ、若干自国史よりもヨーロッパ研究者の割合が高く、28.36%とのこと。

記事では以上のような結果をグラフで示した後、「これで本当にいいの?」と投げかけている。そして最後に、この不均衡を是正するために、次の2つの提案をしている。

①大学は世界の主要地域を全てカバーできるように教員を揃えるべき

②歴史学部はもう少し領域のバランスを取った人選を行うべき

なお、Perspectives on Historyの2013年夏号では、この記事に関連した特集を行っており、記事の問題提起に応じた研究者からの応答の記事が5本掲載されている。また、この調査の詳しい内容は、下記のリンク先にある調査プロジェクトのサイトにもあるようだ。

 

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若干ななめ読みかつ端折りながら紹介したので、関心のある方は是非原文を。

これの日本版の研究をやりたい。

“歴史ビジネス”という身の立て方 AHA2013におけるセッション“The Entrepreneurial Historian”

アメリカ歴史学協会(AHA)の2013年年次大会で、“Malleable PhD”というシリーズセッションが開催され、この中で“The Entrepreneurial Historian”という一セッションが行われた。

このセッションは、単なるアカデミズム外へのキャリアパスではなく、歴史学を元にしたビジネス展開をテーマとしたもので、歴史学をもとにした起業家による報告が行われた。登壇者は以下のとおり。

Kristen Gwinn-Becker:History IT。文書館等を対象に資料デジタル化とデータベースサービスを提供する企業。

Alexandra (Lexi) Lord:Ultimate History Project。就職難ゆえにアカデミズムを去る研究者に対して、そのスキルを生かしてもらうべく成果公表を行うプロジェクト。また、大学所属の研究者に対しても一般市民への発信のための支援も行う。

Jennifer Stevens:Stevens Historical Research。環境や法問題に関する調査研究、文化資源管理業等を行う。

Brian Martin:History Associates。30年以上の歴史があり、80名の従業員を雇う歴史系企業。

このほか二人の大学所属研究者も登壇している。一人がミシガン大のMcClellenで、アカデミックの世界と一般企業との世界が対立するものと考えるのはもはや捨て去るべき「幻想」だと述べている。もう一人は、ウェストフロリダ大のPatrick Mooreで、ここでは地域コミュニティとの連携で行ったNext Exit Historyというアプリ開発を通じたPublic Historyのプログラムが紹介された。

AHAのまとめ記事を見る限り、パネリストは歴史学あるいは人文学の教養を否定的に捉えているのではなく、歴史研究者としてのバックグラウンドやこれまで受けた訓練が“歴史ビジネス”をする上で重要だと述べていたようだ。ただその一方で、狭い専門性を幅広く適用するという必須の能力を養うのが難しいという。これは、研究者としては訓練されない、むしろ抑圧されるものだから、とのこと。

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Alt-Academyを一歩進めた議論で色々と興味深いと思うが、お国柄というのもあるんだろう。

みんなで作る「地方史ペディア」 ミネソタ歴史協会の“MNopedia”

2011年8月に公開された、ミネソタ歴史協会(Minnesota Historical Society)によるウェブサイト“MNopedia”。

一般市民向けに、ミネソタ州の歴史に関する様々な情報を提供するもので、African Americans、Agriculture、American Indians等、全部で19のトピックに分かれている。記事はそのテーマについての概要を伝える程度の分量だが、それに写真などの史料や年表、参考文献等が加えられており、記事以上の情報を調べられるようになっている。

だが、このMNopediaは、ただ単に情報を提供するのではなく、記事の追加を運営者のみならず、ボランティアや特定分野の専門家の力を借りて行っている点に特色がある。

ウェブサイト開設当初は約30件の記事のみだったのが、現在では100件を超すまでに増えているとのこと。追加記事のクオリティが心配だが、最終的な判断は内部の編集チームによって行われており、その点を担保にしているようだ。

みんなで作る地方史ペディアという手法は他にも生かせそうだが、継続性という点でかなりハードルが高いようにも思う。

アメリカにおける人文学の現状を知るための統計データ提供サイト“Humanities Indicators”

2012年11月27日、アメリカ歴史学会(AHA)が、American Academy of Arts and Sciencesの運営しているウェブリソースサイト“Humanities Indicators”を紹介している。

この“Humanities Indicators”は、アメリカにおける人文学に関する様々な統計データとそのグラフを提供するもので、大きく5つのパートに分かれている。その5つとは、以下の通り。

① 小中高における人文学教育

② 大学および大学院における人文学教育

③ (特に大学・大学院における)人文学専攻者のキャリアパス

④ 人文学の研究助成・研究支援

⑤ 日常生活における人文学(人文学のスキル、公共図書館や博物館等の人文学関係機関への支持・利用、人文学に対する市民の意識等)

また、上記の5つのパートの下に、さらに詳しい情報がぶら下がっている。

例えば、「③ (特に大学・大学院における)人文学専攻者のキャリアパス」の下には、人文学専攻者の所得・職業満足度があり、これによると、アメリカ史専攻者は平均より11%高く、人文学では最も多く稼いでいる等が分かる(下図参照)。

ちなみに、データはアカデミーのスタッフによって定期的に更新され続けているとのこと。

かの国の人文学の現状を知るためには有効なツールだと思う。

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こういうのは日本でもぜひほしい。

歴史学の学術コミュニケーション新プラットフォーム“American History Now”公開

2012年10月17日、紙の学術雑誌の持つ欠陥と限界を超えることを目指して作られた、歴史学(アメリカ史)の学術コミュニケーションの新プラットフォーム“American History Now”が公開された。Digital Humanities NowやGlobal Perspective on Digital History等と同じくPressForwardを利用して作成されている。

American History Nowの一つの機能として、レビューの投稿とコメント付与を通じての、議論の場の提供があげられる。American History Nowは、ウェブ上にあるアメリカ史に関するレビューを集め、また誰でもユーザは読んだ本のレビューを投稿できるようになっている。また、他のユーザはそのレビューに対してコメントをつけることで、議論ができるように作られている。そしてもう一つの機能は“Research Notebooks”、いわゆるブログである。ユーザがアイディアや研究のネタ等を投稿して、それに対して議論を行ったり、ヒントを得ようというもの。

学術コミュニケーションを考え直す場を作りたかったと述べているように、要するに、American History Nowは、従来では広まらなかった、論文未満の、しかし忘却するには惜しい、歴史学の情報を掬い上げ、それをウェブに乗せてオープンにしていくもの、と言えるだろう。

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今の仕事を歴史学の分野に移すとしたらどのようなやり方ができるだろうか、という考え続けてきた問いの一つの答えだと思う。さてどうなっていくか。注目せざるを得ない。

Anthony T. Graftonによる講演“Defending the Humanities”

アメリカ歴史学会(AHA)の前会長であるAnthony T. Graftonが会長に就く前の、2010年11月1日にニューハンプシャー大で行った講演“Defending the Humanities”の動画。

Anthony T. Grafton — Defending the Humanities (Part 1 of 4)

Anthony T. Grafton — Defending the Humanities (Part 2 of 4)

Anthony T. Grafton — Defending the Humanities (part 3 of 4)

Anthony T. Grafton — Defending the Humanities (part 4 of 4)