人文系若手研究者のキャリアパスを考える#Alt-Academyプロジェクトが新体制に – 新規エッセイシリーズ公開など

メディア研究者のコミュニティネットワークであるMediaCommons内の一プロジェクトである#Alt-Academyが、このほど新体制に代わり、再出発となった。

#Alt-Academyは、2011年にバージニア大学のScholars’ LabのBethany Nowviskieが立ち上げた、人文系若手研究者のキャリアパスの体験談等を集めるプロジェクトである。日本と同様にアメリカでも人文系若手研究者の就職は厳しく、いわゆる、専門分野の研究者にならず(あるいはなれずに)、大学内で別の関連ポストに就いたり、博物館や図書館、学術出版社、歴史協会、公的な人文系関係機関へ就職したりしている。これらの体験談や実践例を集めることで、他分野のキャリアパスへ進むことに対する人文系研究者のネガティブな意識を変えること等を目指している。

この度の新体制移行では、

・メイン編集者が上述のBethany Nowviskieから、MLAのMLA Commonsでエディタを務めるKatina Rogersに代わった。
・ エモリー大学のDH研究者Brian Croxall編集による新エッセイシリーズLooking for Signpostsがスタート
・および、今後の定期的なサイト更新を予定
・これまでのBethany Nowviskieが編集してきた32名によるエッセイ全24編を、PDF、EPUB形式で電子書籍としてまとめた。

とのこと。

ちなみに、Katina Rogersにはこれまでに人文系若手研究者のキャリアパスと大学院教育に関する調査研究の実績があり、それらも#Alt-Academyプロジェクトの一部(あるいは背景)として公開されているので、読んでおきたい。

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若手研究者問題では、図書館利用の問題など、若手がいかに”研究者としてありつづけるか”、そのための議論を求められるが、自分は人文学研究が存続し続けるためには、それらの議論と同じほど、キャリアパスの問題は重要だと思っている。ので、今後はこちらの議論も進めていきたいところ。

“歴史ビジネス”という身の立て方 AHA2013におけるセッション“The Entrepreneurial Historian”

アメリカ歴史学協会(AHA)の2013年年次大会で、“Malleable PhD”というシリーズセッションが開催され、この中で“The Entrepreneurial Historian”という一セッションが行われた。

このセッションは、単なるアカデミズム外へのキャリアパスではなく、歴史学を元にしたビジネス展開をテーマとしたもので、歴史学をもとにした起業家による報告が行われた。登壇者は以下のとおり。

Kristen Gwinn-Becker:History IT。文書館等を対象に資料デジタル化とデータベースサービスを提供する企業。

Alexandra (Lexi) Lord:Ultimate History Project。就職難ゆえにアカデミズムを去る研究者に対して、そのスキルを生かしてもらうべく成果公表を行うプロジェクト。また、大学所属の研究者に対しても一般市民への発信のための支援も行う。

Jennifer Stevens:Stevens Historical Research。環境や法問題に関する調査研究、文化資源管理業等を行う。

Brian Martin:History Associates。30年以上の歴史があり、80名の従業員を雇う歴史系企業。

このほか二人の大学所属研究者も登壇している。一人がミシガン大のMcClellenで、アカデミックの世界と一般企業との世界が対立するものと考えるのはもはや捨て去るべき「幻想」だと述べている。もう一人は、ウェストフロリダ大のPatrick Mooreで、ここでは地域コミュニティとの連携で行ったNext Exit Historyというアプリ開発を通じたPublic Historyのプログラムが紹介された。

AHAのまとめ記事を見る限り、パネリストは歴史学あるいは人文学の教養を否定的に捉えているのではなく、歴史研究者としてのバックグラウンドやこれまで受けた訓練が“歴史ビジネス”をする上で重要だと述べていたようだ。ただその一方で、狭い専門性を幅広く適用するという必須の能力を養うのが難しいという。これは、研究者としては訓練されない、むしろ抑圧されるものだから、とのこと。

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Alt-Academyを一歩進めた議論で色々と興味深いと思うが、お国柄というのもあるんだろう。

歴史学を専攻した学生のその後のキャリアは? 英Guardianがライブディスカッションイベントを開催

2012年9月13日(木)13時から15時(英現地時間)にかけて、Guardian Careersのサイト上で、ライブディスカッションイベント(と表現してよいのかあまり自信がないが)“Live Q&A”が開催される。そのテーマは、歴史学専攻の学生のキャリアについて。

開催告知の記事では、労働党のDavid Blunkettやコメディアン・俳優のSacha Baron Cohen等も大学で歴史学を学んでいたとあり、歴史学で学んだスキルは様々なキャリアにつながるものだとしている。

Guardian Careersの公式Twitterが#historycareerのハッシュタグを使って、どのようなキャリアについているか、その事例を募集している。

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#歴史学専攻学生の進路は? とかいうハッシュタグで日本の事例を集めあってみてもよいかも。

国内11大学による「わが国のサスティナブルな成長に貢献するRU11(提言)」とNatureの記事から

2012年5月22日に、北大、東北大、筑波大、東大、早稲田、慶應、東京工大、名大、京大、阪大、九大の11大学で構成されるコンソーシアムRU11が、「わが国のサスティナブルな成長に貢献するRU11(提言)」を発表した。

具体的には以下の3つの提言が挙げられている。

提言1:限りある財源の中で努力する大学が更に成果を発揮できる環境に~厳しい財政状況の中、資金効率を高める方策を~

提言2:我が国最大の研究費「科学研究費補助金」の早期・完全基金化を~研究効率と資金効率を上げる仕組みの完成を~

提言3:優秀な人材が博士の道を選択し社会に貢献する魅力ある環境の整備を~「競争」と「雇用」の両立を~ 

このうち提言3の前提として、「RU11若手研究者を取り巻く厳しい雇用環境優秀な人材が博士を敬遠」が指摘されている。すなわち、「RU11修士の博士進学数・率が低下」しているとして、平成15年のRU11における修士から博士の進学率が22.8%であったのに対し、平成22年は17.5%となっている数字を挙げている。

ところで、RU11の提言とは別に、時期を同じくして、今年3月20日付けのNatureの記事「国立大学で若手研究者が減少傾向」が公開された。そこでは、若手研究者の減少傾向を指摘し、その原因の一つとして次のように述べている。

若手研究者が減少している原因の1つには、定年を65歳に延長する大学が相次いだことが挙げられる。

もちろん記事では、この指摘に関連して国立大における総人件費削減等を挙げている。しかし、RU11の提言には、このNatureの記事が指摘しているような大学内部の現職教員の滞留等は特に指摘されていないようだ。

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ということは当然、Natureの記事を提言を作成したRU11の大学関係者はどのように読んだのだろうか、ということになるが…

「役に立つ13の専攻」と「役に立たない13の専攻」

The Daily Beastというニュースサイトで「役に立たない13の専攻」と「役に立つ13の専攻」という2つの記事が掲載されている。

いずれの記事も、2012年1月にジョージタウン大学のCenter on Education and the Workforceが刊行した“Hard Times”という、学部時代の専攻と就職・給料との関係について調査したレポートと、労働統計局(Bureau of Labor Statistics)のデータに基づいてまとめられている。

したがって、「役に立つ」とか「役に立たない」というのは、低い失業率と高い給料を得られる、今後10年間成長する見込みのある分野に就職できるか否か、という観点でのもの。紹介されている計26の専攻については、最近の就職率や給料や、2020年までの成長の見込み等も紹介されている。

それで、役に立つとされた13の専攻は次の通り。

1. Nursing 

2. Mechanical Engineering 

3. Electrical Engineering 

4. Civil Engineering 

5. Computer Science

6. Finance 

7. Marketing and Marketing Research 

8. Mathematics 

9. Accounting

10. French, German, Latin, and other Common Foreign Languages 

11. General Business 

12. Elementary Education 

13. Economics 

10位?にフランス語やドイツ語の外国語の専攻があげられているのは興味深い。

次に、役に立たないとされた13の専攻は以下の通り。

1. Fine Arts

2. Drama and Theatre Arts 

3. Film, Video, and Photographic Arts

4. Commercial Art and Graphic Design

5. Architecture

6. Philosophy and Religious Studies

7. English Literature and Language

8. Journalism

9. Anthropology and Archeology

10. Hospitality Management

11. Music

12. History

13. Political Science and Government

こちらは軒並み人文・芸術系。12位?に歴史学が出ている。

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件の“Hard Times”というレポートについては少し前にも話題になっていたかもしれない。

「それで、歴史学を学んだあなたは何ができるの?」というシリーズ記事

ペンシルバニア州のMessiah CollegeのJohn Fea准教授のブログサイト“The Way of Improvement Leads Home”で、“So What CAN You Do With a History Major?”というシリーズ記事が掲載されている。現在、第38回を数えている。

このシリーズでは、大学で歴史学を専攻した後、それを生かしてどのような職に就いているか、その経験をそれぞれに紹介してもらおうというもの。

記事では、アフリカで医療サービスの提供に従事している人、コンピュータ関連の企業に勤めている人等が登場している。

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歴史を学んでそれをどう生かせるのかを知るには、実践している人に語ってもらうというのはわかりやすい。興味深い試みだと思う。

英語圏のデジタルヒューマニティーズの求人情報を提供する“Digital Humanities Job Archive”

主に英語圏のデジタルヒューマニティーズの求人情報をまとめるアーカイブ“Digital Humanities Job Archive”。Digital Humanities NowやTwitter等からの情報が掲載されている。

アーカイブ作成の理由は、Twitter等では募集期限前に情報にたどり着けなくなってしまったり、Listservでは情報は保存されても、見つけるのが難しくなるからとしている。

現在リスト化のための協力者を募集しているようだ。

パブリックヒストリアンの新たなキャリアパスを考えるためのブログ

2012年にミルウォーキーで開催されるNational Council on Public History(NCPH)とOrganization of American Historians(OAH)の合同ミーティングでの、同名のワーキンググループのブログサイト。

パブリックヒストリアンが今後生計を立てるにはどうしたらよいか、という(ストレートかつ切実な)問題について議論することを目的に開設された。パブリックヒストリアンの活躍する場は広がる一方で、先の暗い経済状況を見据えると、それも安泰ではないという。ブログは、問いかけとそれに対する応答の記事から成り立っている。

AHAの前会長の話では、博士課程の学生がテニュアを取るのは厳しくなってきているので、パブリックヒストリーの方面を見ていかねばということだったが、必ずしもそれで大丈夫というわけではないようだ。歴史を学んだものが歴史研究者だけではなく、ほかにどのような職を開拓できるのかを考える上で、今後も見ておきたいサイトかもしれない。

アメリカ歴史学会ニューズレター最新号に「若手研究者問題」「歴史学と現代社会」関連の論考が掲載

アメリカ歴史学会(American Historical Association:AHA)のニューズレター“Perspectives”の最新号(2011年12月号)に、「若手研究者問題」と「歴史学と現代社会」をテーマとした記事が複数本掲載されている。

メインの記事は、AHA会長のAnthony Graftonと、AHAの役員のJim Grossmanによる巻頭の2本。

Graftonはこれまでに2回(2011年10月、11月)、そのニューズレターに若手研究者問題とその解決に向けた提案を掲載しているが、今回の“Historians at Work, III: Public History”という記事はその続編にあたるものである

記事では、ニューヨーク市博物館(Museum of the City of New York)で働く若手歴史研究者が、様々な専門家と共同で企画展示に携わっている様子やその成果が取り上げられ、その最後にGraftonは、「これこそまさに歴史学だ」と称え、若手研究者のパブリック・ヒストリー活動に関心のある博物館関係者に対してアンドリュー・W・メロン財団が支援するパブリック・ヒストリーのプログラムを推奨している。(このGraftonの記事に関連したものとして、“Tenured Radical”の12月19日付の記事があるので、併せて読みたい。)

Grossmanの“Historical Sensibility and Civil Society”という記事は、政治の議論における歴史学的思考と歴史学的成果の有用性というものについて提起する内容となっている。

なお、この号には若手研究者問題に関する他の記事が数件あるほか、これまでに2回掲載されたGraftonの記事に対する批判、およびGraftonによる反批判も掲載されている。

アメリカ歴史学会会長からのさらなる提案“Plan C”

2週間ほど前に書いた「アメリカ歴史学会会長 「若手のテニュアへの就職状況は改善する見込みはもはやない。そのため…」」の記事で取り上げた、アメリカ歴史学会(AHA)会長らによる記事“No More Plan B”の続編がAHAのウェブサイトで公開されているのでご紹介。

記事はまず、前回の“No More Plan B”への反響の紹介から始まる。その中で、軍で働く歴史研究者からの、「最大の問題は、アカデミズムの中にいるものがアカデミズムの外に人との間での相互交流が必要だということ」との指摘が紹介される。

AHAがアカデミズム内外を結ぶパブリックヒストリーの取り組みを行うことはもちろん可能だが、しかしそれは、PhDを育てる研究者や、その研究者が働く大学などによって担われる必要があるという。パブリックヒストリーへの取り組みは一部の大学でみられるものの、大多数ではそれをPhD養成の正道とは考えておらず、依然としてPhDのプログラムからは切り離されたものとみなされている。そしてそのためにメディアから、そのような視野の狭さが学生の可能性を狭めるのであり、研究者とは違う道に進んで成功した歴史研究者が切り開いた道に後から続くものを生み出しにくくなるのだ、とたたかれてしまうという。

会長らはこのような指摘はおかしいと反論するが、それでも、歴史研究者自身も博士を養成する自分たちの能力や貢献を過小評価しているのではないかと指摘する。人文系のポストが減らされる事態を失望するのは、教育活動が市民を育てるのと同じように労働者を育成するものであるという考えに拠っているからではないか、歴史研究者もまた自分自身たちにそして学生に対して、納税者に対するのと同じ様に、歴史学のPhDがさまざまな職業につながる扉を開くものであることを説くべきなのだと主張する。

その職業選択の可能性を広げる方法として、大学全体での協力関係を作ることが提案される。これにより、現状では提供できていない教育(例として、デジタル技術や、ファイナンス、マネジメントに関するコース)を学生に提供できるとしている。

最後に、好むと好まざるとに関わらず、今は新たなスキルが必要とされる新たな仕事が生まれている時代なのだから、自分たちが受けてきたこれまでの教育方法を学生に伝えることに固執するのではなく、新たな方法を開拓し、歴史学に関わり続けるための方法を探し、そしてそれを実践することが必要なのだと括られる。

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Insider Higher EDがまとめているように、

・博士課程のカリキュラムにパブリックヒストリーを取り入れる

・教員の意識改革

・大学全体の協働

の3つがポイントのよう。

なお、上記は要点をざっくりまとめたものなので、思わぬ誤読や勘違いがあるかもしれません。是非原文でご確認を。