DH関連と思しき科研新規採択課題(2015年度)

科研費のデータベースに新規採択課題が収録されたので、DH関係のものを探してみた。 検索は以下の通り行った。

  • 研究分野:図書館情報学・人文社会情報学
  • 研究期間:2015年~新規のみ

結果は59件。そこから、目視でDHと関係と思しきものをリストアップしたのが以下の16件。 もちろん、「図書館情報学・人文社会情報学」以外の分野でもDH関連と思われるものはあるはずであるし、また、タイトルのみの確認に留まるので、DHなのに下のリストから漏れたものや、あくまでDH関連と「思しき」ものでしかない。あくまでメモ的に。

課題名 代表者 研究種目
原史料メタ情報の生成・管理体系の確立および歴史知識情報との融合による研究高度化 山家 浩樹 東京大学・史料編纂所・教授 (60191467) 基盤研究(A)
セマンティック・クロノロジー:時間軸に沿った知識の可視化と利用に向けた基盤構築 関野 樹 総合地球環境学研究所・准教授 (70353448) 基盤研究(A)
「地域の知」のためのデータ寄付・時空間構造化・永続化支援プラットフォームの構築 有川 正俊 東京大学・教授 (30202758) 基盤研究(B)
アンティークステレオ写真をディジタルアーカイブし活用するための基盤技術 清水 郁子 東京農工大学・工学(系)研究科(研究院)・准教授 (70312915) 基盤研究(C)
サイエンスミュージアムにおけるオープンデータ利活用基盤に関する研究 遠藤 守 名古屋大学・情報科学研究科・准教授 (90367657) 基盤研究(C)
翻刻・本文校訂を前提としないクラウド型古文書画像検索システムに関する研究 中田 充 山口大学・教育学部・教授 (60304466) 基盤研究(C)
ロンゴロンゴのデジタルアーカイブと言語情報の抽出 山口 文彦 慶應義塾大学・理工学部・研究員 (60339124) 基盤研究(C)
訪日外国人旅行者による地域歴史資料を活用した情報発信に関する研究 沢田 史子 北陸学院大学短期大学部・准教授 (20456429) 基盤研究(C)
Framework for Studying Language Evolution using Large Scale Data ADAM Jatowt 京都大学・情報学研究科・准教授 (00415861) 挑戦的萌芽研究
論文著者に着目した大規模書誌分析に基づく科学論文生産構造の解明 川島 浩誉 文部科学省科学技術・学術政策研究所・研究員 (40649076) 挑戦的萌芽研究
「昭和天皇実録」からの人脈抽出による20世紀の日本寡頭政の政治経済史研究 増田 知子 名古屋大学・法学(政治学)研究科(研究院)・教授 (10183104) 挑戦的萌芽研究
日中比較文学の影響分析における定量的方法の研究 吉村 誠 山口大学・教育学部・教授 (70141116) 挑戦的萌芽研究
作家の計量分類による日本近現代文学史の構築 高橋 寿美子 大妻女子大学・助手 (40579182) 挑戦的萌芽研究
市民コミュニティのためのオープンデータ活用推進に関する研究 浦田 真由 名古屋大学・国際開発研究科・助教 (70634947) 若手研究(B)
「語り」の蓄積からコミュニティの物語を出力する地域デジタルアーカイブの構築と運用 松本 早野香 サイバー大学・総合情報学部・講師 (90575549) 若手研究(B)
旋律と歌詞の計量的分析による日本民謡の地域的特徴の解明 河瀬 彰宏 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所・研究員 (80739186) 若手研究(B)

中世スペインにおける宗教的共存と対立を3D空間で学ぶVirtural Plasencia

キリスト教徒・ムスリム・ユダヤ教徒の共存と対立は、中世スペイン史における一つの重要なテーマだが、これをヴァーチャルに3D空間で再現したVirtural Plasenciaが、10月22日に公開された。

これは、アメリカ、スイス、スペインの3か国、計9大学の研究者による”Revealing Cooperation and Conflict: An Integrated Geovisual and Transcription Project for Plasencia, Spain (circa 1390-1450)”というプロジェクトの成果で、テキサス大学オースティン校の中世地図資料を扱ったDHプロジェクト “MappaMundi”の一プロジェクトに位置づけられている。

Virtural Plasenciaでは、プレーヤーはエストゥレマドゥーラにある一都市プラセンシア(Plasencia)の15世紀(1416~1455)の街並みを散策しながら、様々なトピック――例えば当時のワイン製造等――を通じて、宗教的共存と対立を学ぶことになる。プラセンシアは、その後のスペインそしてヨーロッパを形成する上で重要な諸々のイベントに関わることから、この都市が同プロジェクトで選ばれたようだ。

興味深いのは、3D空間で紹介されるトピックの”作成の仕方”である。紹介される史実は、(当たり前のことだが)史料に基づいて記述されており、表示される解説文でも史料の引用が多数行われている。これらの史料は、プラセンシアの大聖堂や市の公文書館の所蔵資料だが、特に大聖堂のアーカイブズの利用は指定の一週間に数時間程度のもので、ノンビリ読む間もない。そのためこのプロジェクトでは、2014年夏と秋に開講されたMOOCのコース”Deciphering Secrets: Unlocking the Manuscripts of Medieval Spain”の受講生をcitizen-scholarsとして、デジタル化史料の翻刻と分析に参加させるという手法を採ったという。

現在のプラセンシアの大聖堂前

 

既に同プロジェクトはver.2.0の開発に着手しており、今後は、散策できるエリアの拡大やインターネット教育リソースの提供機能、ソーシャルメディアとの連携、そしてプレーヤーをアバターで表示させる機能を追加する予定とされている。

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誰もいない空間を歩き回るのは、少し、いやかなり違和感がある。また、一トピックで読む解説文が長すぎて、3Dにした意味があまり感じられない。とても興味深いかつ意義のあるプロジェクトだと思うので、今後の改善に期待したい。

 

 

 

「ポスト・ピアレビュー」を採用したクラウドソーシングによるDigital Humanitiesニュースサイト“DHThis”登場

Digital Humanitiesのニュースサイト”DHThis”が9月10日(?)に公開された。運営者は、DHpocoのAdeline KohさんとRoopika Risamさん、そしてOLH(!)のMartin Eveさんなど5名。

これまでのDHニュースサイト(例えばDigital Humanities Now)が、編集者によるキュレーション/取捨選択によってニュースをニュースとして掲載していたのに対し、このDHThisはニュース投稿からニュースとしての公開までの流れを全てクラウドソーシング化した点が革新的だ。

 

DHThis - Your Source for Social News and Networking (1)

 

具体的な仕組みは次の通り。

・まずフリーのユーザ登録を行う。
・ログイン後、DH関係のニュースを投稿できるようになる。
・投稿されたニュースは、まだ「ニュース」とはみなされていない。非掲載ページの「New」で他のユーザから5回「イイネ!」をもらえると、晴れてDHThisのトップページ画面にニュースとして表示されることになる。
・また、ログインユーザは、他の投稿ニュースを評価にも参加できる。

ニュースの収集だけでなく、ニュースをポスト・ピアレビューで評価するという点でもクラウドソーシングを利用するというこのDHThis。これにより、運営者は思いがけないニュースの発掘につなげたいとしているようだ。ちなみにまだベータ版で、#DHThisのハッシュタグでフィードバックが求められている。

 

 

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・DHニュースの量は確かに多い、多くなってきたと思うので、キュレーションをクラウドソーシング化させたというのは確かに重要だと思う。この取り組みの成否(廃墟にならないかどうか)を踏まえて、某サイトでも採用してみるのもアリだと思った。
・一方で、英語圏のDH研究者のTwitterでの議論が活発な様子を見ると、「思いがけないニュース」がありうるのかとやや疑問にも思う。
・ともかくも、まずはユーザ登録しておいた。

人文系大学院教育改革とDigital Humanitiesプログラムの融合 – “Praxis Network”

2013年3月20日、バージニア大、ミシガン州立大、ニューヨーク市立大学、UCL、デューク大学の大学院生、およびホープ大とブロック大学の学部生を対象にした横断プログラム“Praxis Network”が発表された。

“Praxis Network”は、バージニア大の学術コミュニケーション研究所が進めている大学院教育改革プログラムの一つに位置づけられているもの。このデジタル時代において人文学研究(者)が身に着けるべきリテラシーを明らかにすること、学部・院生のキャリアパスを拡げることができるようなモデルプログラムを共有することがその目的とされている。

要するに、Digital Humanities教育と人文系院生キャリアパス拡大を結びつけた米英加の大学ネットワークプログラムだと言える。

なお、このネットワーク構築の背景には、Alt-Academyによる人文系院生のキャリア教育に対するアンケート調査等があることも忘れてはならないだろう。

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DHの発展と人文系院生のキャリアパスの問題、そして人文学アドヴォカシーの3つの要素を備えたプログラムとして注目に値すると思う。各大学の参加プログラムもそれぞれ見ておきたい。

DHにポストコロニアリズムを―Postcolonial Digital Humanities

Adeline KohとRoopika Risam両氏によるプロジェクト“Postcolonial Digital Humanities”のウェブサイトが、3月15日に公開されている。

これは、デジタル空間において白人優位の人種間格差があることを背景に、コロニアリズムや帝国主義、グローバリゼーション批判と、人種や階級、ジェンダー、セクシュアリティ等に関係した批判理論を、Digital Humanitiesにもたらすのが狙いとされている。(もちろん、Postcolonial Digital Humanitiesとは何か、といったそもそもの問題も提起している。)

このプロジェクトの前身には、90年代にエモリー大の研究者らが公開していた、ポスコロ研究に関する文献や情報を提供するウェブサイトがあるが、Postcolonial Digital HumanitiesはこれをWeb2.0、ソーシャルメディアを活用して行っていくのだとしている。

これまで続けられてきた人文系の諸理論がDHではあまり考慮されていないと思っていたので、こういう取り組みが出てくるのはありうることだと思う。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校とカ・フォスカリ大学が共同でDHセンターとプロジェクトを実施へ

2013年2月23日、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とイタリアのカ・フォスカリ大学(Ca’ Foscari  University)が、ベネツィアにおける科学・芸術分野の教育・研究・アウトリーチ活動のための分野横断的なセンターを共同で開設したと発表している。これは、今後開設される予定のDH研究センター“Digital Humanities Venice”のための第一歩という位置づけで、2014年9月から修士の学生を受け入れるという。

また、これとともに“Venice Time Machine”というDigital Humanities研究プロジェクトの実施も発表している。

“Venice Time Machine”は、ベネツィアの過去と現代を対象にしたDHプロジェクトで、アーカイブズ史料のデジタル化とそれらのデータマイニング、過去と現在のネットワークのモデル化、3Dインタラクティブマップのようなデータビジュアル化等に取り組むとされている。