考古学史オーラルヒストリープロジェクト“Personal Histories Project”

ケンブリッジ大のMcDonald Institute for Archaeological ResearchのリサーチフェローPamela Jane Smithが主催する研究プロジェクト“Personal Histories Project”が興味深い。Pamela Jane Smithさんは、イギリスとカナダの20世紀の考古学史を専門とする研究者。

“Personal Histories Project”では、シニアの考古学研究者を招いて、研究上の思い出や人生について語ってもらう講演会を開催し、それを記録するというオーラルヒストリープロジェクト。考古学史の史料収集とその蓄積が目的だが、その講演会の記録は、大学のサイトで公開されており、集めた資料(史料)を教育でも活用できるようになっている。

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(日本の)歴史学界でも、ここ数年、高齢の研究者による思い出語りや史学史上の記録のような文献の刊行が相次いでいる印象があるが、こういった講演動画を公開するというのもやってほしいなぁと。(公開される側は嫌がるかもしれんが。)

歴史研究者が見ておくべきTEDの10のプレゼン

2013年4月23日付のAHA Todayの記事で、歴史研究者が見ておくべきTEDの10のプレゼンがまとめられている。

歴史関係の動画が多いが、よく知られている(と思う)ケン・ロビンソンの「学校教育は創造性を殺してしまっている」等の歴史学に留まらないものも含まれている。

 

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機会を見つけて見ていきたい。

個人的には、「ウィリアム・ノエル:失われたアルキメデスの写本の解読」もお勧め。

【記事紹介】歴史学若手研究者の就職難の解決に向けた8つの具体的な提案

アメリカ歴史学協会(AHA)の月刊誌“Perspectives on History”2013年4月号に、“Reform Time: Some Proposals to Help Solve the Job Crisis”という記事が掲載されている。執筆者は、US Naval War Collegeで軍事史等を教える研究者Nicholas Evan Sarantakesで、彼は“IN THE SERVICE OF CLIO”という歴史研究者のキャリアマネジメントをテーマとしたブログを運営している。

記事は、2011年に若手研究者の就職難の解決方針をAHA会長らが提案した記事“No More Plan B”を踏まえたものとなっている。Sarantakesは、“No More Plan B”での議論は重要としつつも、その内容が未来を向いたあいまいなものであると批判し、かわって自分の記事では、現在のAHA会員のためにAHAに対して具体的な提案をするのだとしている。

その具体的な提案というのが以下の8項目。

(1)AHAは、AHAが若手研究者の就職難にできることは何かについて話し合うような、カンファレンスのスポンサーをすること。

(2)AHAは、大学当局(学部長級)ができることは何かをテーマとしたカンファレンスのスポンサーをすること。

(3)K-12の歴史の先生のための分科会を作ること。

これは、歴史の教員になろうという若手研究者に対して、その仕事内容やアドバイス等を提供する分科会を想定したもの。

(4)AHAの刊行物に掲載する、若手研究者の就職先機関(考古学やPublic Historyの組織、資料保存を行うような政府機関等)の求人広告料を大幅に引き下げること。

(5)AHAの会長職を歴史学以外の分野から招くこと。

以前は政治学、図書館学、考古学等の史学隣接領域から会長になっていたが、WWII以降はそれが途絶え、もっぱら大学の歴史研究者に絞られてしまったとしている。そのため、他のキャリアへの視野を広げるためには、AHAのリーダーシップを他分野に広げる必要がある、とのこと。

(6)Alt-Academyの講演シリーズを行うこと。

歴史学を修めた後、現在は別の業界で働いている人を招いて、講演シリーズを開催する。

(7)週末に他分野の専門家を招いて、必要なスキルについてミニワークショップを開催すること。

Ph.D取り立ての若手研究者は他の分野の学位も必要なのか?インターンシップは重要なのか?等の問いに答えてもらう。

(8)歴史学の博士課程の講座を閉鎖するためのプログラムの開発

(1)~(7)は”症状”を和らげるためのもので、そもそもの問題は歴史学の博士号所持者が過剰に増えていることにある。したがって、供給を抑える必要がある。そのため、AHAは博士課程の募集を辞めるようなプログラムに対して、評価すべきだという。

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“AHA”を日本の別の機関の名前に変えると、結構参考になるように思う。(8)で賛否に大きく分かれそうだ。

移動式デジタルメイカースペース“DHMakerBus” プロジェクト始動

2013年4月14日に、カナダのウェスタン大学の院生による“DHMakerBus”というプロジェクトが発表された。このプロジェクトは、バスを使った移動式のデジタルメイカースペースを作ろうというもので、その運営を通じて、Digital Humanitiesの一般への発信、つまりDigital Public Humanitiesを目指すものだと言えるだろう。

このプロジェクトは、まず、寄付を募って(ロンドンの?)スクールバスを購入し、その内部をメイカースペースへ改造するところから始められている。

その後、メイカースペースとしての更なる充実を図るために、今年アメリカのネブラスカ大学リンカーン校で開催されるDHの国際会議(DH2013)に参加して、参加者からアドバイスをもらう予定。そのため、当然のことながら、現地まではバスで移動という。

その後ロンドンに行き、UnLondon Digital Media Associationから支援を受けて、移動式メイカースペースとしてロンドン市民に貢献しようというものだ。

メイカースペースの設置が相次いでいるが、それをバスにしようという発想はなかったし、ましてやそれがDHと結びつくのかと驚いた次第。

なかなか面白い取り組みだと思う。しかしなぜカナダの院生がロンドンなんだろうか。

英国国立公文書館が第一次世界大戦時の軍の日誌のデジタル化を完了 公開は今後

2013年4月8日、英国国立公文書館(TNA)が、第一次世界大戦の軍の日誌のデジタル化を完了したと発表した。今回は、特に利用の多い“WO95”という史料群のデジタル化が終わったとのことで、第一次世界大戦100周年を前にオンライン公開を予定しているという。

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WWIの研究は100周年迎えた後の方が史料の収集が楽になりそうだ。先行研究の収集が大変そうだが。

人文系大学院教育改革とDigital Humanitiesプログラムの融合 – “Praxis Network”

2013年3月20日、バージニア大、ミシガン州立大、ニューヨーク市立大学、UCL、デューク大学の大学院生、およびホープ大とブロック大学の学部生を対象にした横断プログラム“Praxis Network”が発表された。

“Praxis Network”は、バージニア大の学術コミュニケーション研究所が進めている大学院教育改革プログラムの一つに位置づけられているもの。このデジタル時代において人文学研究(者)が身に着けるべきリテラシーを明らかにすること、学部・院生のキャリアパスを拡げることができるようなモデルプログラムを共有することがその目的とされている。

要するに、Digital Humanities教育と人文系院生キャリアパス拡大を結びつけた米英加の大学ネットワークプログラムだと言える。

なお、このネットワーク構築の背景には、Alt-Academyによる人文系院生のキャリア教育に対するアンケート調査等があることも忘れてはならないだろう。

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DHの発展と人文系院生のキャリアパスの問題、そして人文学アドヴォカシーの3つの要素を備えたプログラムとして注目に値すると思う。各大学の参加プログラムもそれぞれ見ておきたい。