『人文情報学月報』でDigital Humanities/Digital Historyに関する連載を始めました。

DHに関する月刊メールマガジン『人文情報学月報』で、Digital Humanities/Digital Historyに関する1か月間の動向をまとめた記事の連載を開始しました。

機会を与えてくださった永崎先生に感謝。

1940年パリ陥落、その記憶を共有するための歴史書連動サイト“Fleeing Hitler”

2007年に刊行されたバース大学のフランス現代史研究者Hanna DiamondによるFleeing Hitler: France 1940の関連ウェブサイトが、2012年11月18日に公開された。名前も書名と同じく、“Fleeing Hitler”。

同書は、1940年のパリ陥落後、南部ヴィシー政府を目指して避難した400万人近くの市民のその記憶を、当時の証言やメモ、日記を使って検証したもの。このウェブサイトは、同書刊行後に寄せられた、同じような経験を持つ人々が記憶を共有したいとの声を受けて開設されたものだ。

ウェブサイトでは、その記憶の共有のため、写真等とともに投稿するフォームが用意されている。投稿されたものは、ウェブサイトで閲覧できるしくみ。また、Googleマップ上にもマッピングされており、場所を確認できるようになっている。

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書籍と連動したウェブサイトの企画をたまに見かけるが、このような取り組みは歴史叙述を“本”という物理的な領域にとどめない/とどまらせないものとして興味深いと思う。専門書の広報としても一役買っているかもしれない。

※ リンク切れ修正。公開のお知らせが2013年3月15日のブログに移動していた。(2013.12.25追記)

個人所蔵の地域史料を掘り起こしデジタル化する“History Harvests”というプロジェクト

American Historical Associationの月刊誌“Perspectives on History”の2013年1月号に、“History Harvests”を扱った記事が掲載されており、このほどそれが会員以外にも公開された。

“History Harvests”とは、University of Nebraska-Lincolnの歴史学部が2010年に始めたプロジェクトで、James Madison Universityも実施している。これは、学生が地域の個人宅に眠る史料(文書史料に限らない)を掘り起こし、デジタル化するというものだ。だが、単に新史料を発見するだけではない。地域あるいは家族の歴史が、アメリカというより大きな物語にどのように接続するのかを、参加者とともに検証し、議論し、そしてまとめられる。その目的は、これまで見えなかったアーカイブズや物語を可視化させ、公の空間に連れ出すことにあるとされている。

公開された“Perspectives on History”の記事には、前段で紹介した、“History Harvests”の定義や意義だけでなく、実際にプロジェクトを実施する上での9つの注意点がまとめられている。それは以下の通り(意訳している)。

1.地域には様々な歴史が存在するので、テーマ/焦点を絞って実施すること。

2.集めた史料をどのように利用し、どのように扱うのかについて、丁寧に説明をすること。

3.大学内外の機関と連携して実施すること。

4.大まかなコンセプトとガイドラインを決めたら、あとは学生の自主性にゆだねること。

5.実施前の広報は力を入れること。

6.作業を迅速に行えるようフローは維持すること。

7.史料所有者と会える機会は当日だけなので、その時にオーラルヒストリーと史料に関する情報を集めること。

8.参加者にプロジェクトのテーマについての知識を提供したり、それぞれの持ちよった史料についての情報を語りあう機会を提供すること。

9.機関と地域コミュニティとの間の橋渡しをすること。

History Harvestsのウェブサイトには、プロジェクトで集めた史料等のほか、授業のシラバスや広報ポスター等も公開されている。

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史料保存×Digital History×Public History×歴史教育のバランスのとれたプロジェクトだと思う。日本だと地域資料デジタル化研究会があるが、これに歴史教育が加わったもの、と考えればよいのだろうか。


スペインの歴史・社会科教育のためのリソース集

バルセロナ大学のJoaquim Prats Cuevas教授らが運営している歴史・社会科教育のためのポータルサイト“Histodidactica”が、歴史・社会科関係のリンク集を作って公開している。今回初めて公開されたのかどうかは不明。

リンク集は大きく以下の8つに分類されている。

1. 教育リソース一般のポータルサイト(歴史・社会科を含む)

2. 雑誌や論文リポジトリ等

3. ブログやウェブサイト

4. 史料、歴史をテーマにしたリンク集や要約類

5. メディアテカ(メディア+図書館)、電子ジャーナル関係、博物館等

6. 教室で使えそうな地図等

7. 統計データ

8. 歴史や社会科教育雑誌

かなりの量の情報がまとめられているので、スペインの歴史教育だけでなく、Digital Historyの資料としても重宝しそうだ。

Curating Media and Design: New book: Digital Memory and the Archive, by Wolfgang Ernst

medeamalmo:

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Digital Memory and the Archive, the first English-language collection of the German media theorist’s work, brings together essays that present Wolfgang Ernst’s controversial materialist approach to media theory and history. His insights are central to the emerging field of media archaeology,…

Curating Media and Design: New book: Digital Memory and the Archive, by Wolfgang Ernst

高・中・低所得経済国のDH研究者間の連携促進を目指す“GO::DH”が結成 ADHOの最初のSIGに

高・中・低所得経済国をまたいでDigital Humanitiesの研究者間の連携促進を目指す組織“Global Outlook::Digital Humanities(GO::DH)”が2012年末に結成された。まずはアフリカ、中国、ラテンアメリカの研究者を巻き込んだイベントの企画を行っているという。

このGO::DHが、2013年1月14日に、DH国際学会連合たるAlliance of Digital Humanities Organaisations(ADHO)の最初のSpecial Interest Groupとなったと発表している。


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現状、DHの研究が先進国中心になっていることを考えると、興味深い動きだと思う。特にDHの肝が共同研究・連携にあることを考えればなおさら。

この団体の結成で、今後DHが先進国以外にどのように拡大していくのかが気になるところ。

“歴史ビジネス”という身の立て方 AHA2013におけるセッション“The Entrepreneurial Historian”

アメリカ歴史学協会(AHA)の2013年年次大会で、“Malleable PhD”というシリーズセッションが開催され、この中で“The Entrepreneurial Historian”という一セッションが行われた。

このセッションは、単なるアカデミズム外へのキャリアパスではなく、歴史学を元にしたビジネス展開をテーマとしたもので、歴史学をもとにした起業家による報告が行われた。登壇者は以下のとおり。

Kristen Gwinn-Becker:History IT。文書館等を対象に資料デジタル化とデータベースサービスを提供する企業。

Alexandra (Lexi) Lord:Ultimate History Project。就職難ゆえにアカデミズムを去る研究者に対して、そのスキルを生かしてもらうべく成果公表を行うプロジェクト。また、大学所属の研究者に対しても一般市民への発信のための支援も行う。

Jennifer Stevens:Stevens Historical Research。環境や法問題に関する調査研究、文化資源管理業等を行う。

Brian Martin:History Associates。30年以上の歴史があり、80名の従業員を雇う歴史系企業。

このほか二人の大学所属研究者も登壇している。一人がミシガン大のMcClellenで、アカデミックの世界と一般企業との世界が対立するものと考えるのはもはや捨て去るべき「幻想」だと述べている。もう一人は、ウェストフロリダ大のPatrick Mooreで、ここでは地域コミュニティとの連携で行ったNext Exit Historyというアプリ開発を通じたPublic Historyのプログラムが紹介された。

AHAのまとめ記事を見る限り、パネリストは歴史学あるいは人文学の教養を否定的に捉えているのではなく、歴史研究者としてのバックグラウンドやこれまで受けた訓練が“歴史ビジネス”をする上で重要だと述べていたようだ。ただその一方で、狭い専門性を幅広く適用するという必須の能力を養うのが難しいという。これは、研究者としては訓練されない、むしろ抑圧されるものだから、とのこと。

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Alt-Academyを一歩進めた議論で色々と興味深いと思うが、お国柄というのもあるんだろう。

最近オープンアクセスで公開されたDigital Humanities関連文献3本

最近オープンアクセスで公開されたDigital Humanities関連の文献を3本。

一つはDHの教育に関するもので、二つ目はDHの研究者によるエッセイ集のようなもの。二つ目の方は、今回オンラインで公開されたことで、印や書き込みが可能なソーシャルリーディングとなったのが大きい。今後も2013年3月と冬にも2度の機能拡大が予定されている。

①Brett D. Hirsch (ed.) Digital Humanities Pedagogy: Practices, Principles and Politics. Open Book Publishers. 2012. 448p.

Matthew K. Gold. ed.,  Debates in the Digital Humanities. University of Minnesota Press. 2012. 504p.

追記:
記事公開した後で、もう一つあったのを思い出したので追加。

British LibraryがDH関連の新ブログ“Digital Scholarship Blog”を立ち上げ

2013年1月8日、British Libraryが“Digital Scholarship Blog”という新ブログを立ち上げた。

研究者と図書館スタッフとの間の情報交換のためのものという位置づけで、①デジタルコンテンツ②ツールとサービス③研究者とのコラボ/連携④スキルの4つが主要なテーマとなっている。特に③の研究者との連携協力が特に重要な位置を占めているようだ。

British LibraryのDH関連の取り組みを知るうえで、RSS登録しておきたい。

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今のところ国立図書館でこういう電子コンテンツの研究利用に関する部局があるのは、米英ぐらいなんだろうか。

HASTACにおけるDigital History関係のブログシリーズ記事

2012年10月から12月にかけて、HASTACのDigital Historyグループメンバーが、“Two-Part Series”というブログシリーズを行っていた。

Digital Humanitiesが歴史研究者と歴史研究の実践にどのような影響を与えるのかについての議論を活性化させることを目的に行われたもので、Digital Historyに関連する8つのテーマを毎週計8週間にわたってポストされ、各テーマごとにブログのコメント欄を使って議論された。

テーマは大きく2つに分けられていて、前半ではデジタルツールに焦点をあて、後半ではPublic Historyと専門職環境におけるデジタルツールの使い方を論じている。具体的には以下の通り。

第1週 “Mapping and Spatial History”

教育ツールとしてのデジタルマッピングについて、特にGISとGoogle Earth、Social Explorerについての情報と授業におけるそれらのツールの利用の際の問題点を論じている。

第2週 “Digital Timelines”

歴史教育者と歴史研究者にとってのデジタルタイムラインとは?をテーマとしたもので、どちらにも活用できると論じている。

第3週 “Creating ‘No Es Facil’: A Visual Historiography”

インターネットが使えない場合にインタラクティブなプロジェクトを生み出すための、映画やマッピング、デジタルタイムライン、写真の利用について論じたもの。また、執筆者の行っているメキシコ系アメリカ人に関するフィルムプロジェクト“No Es Facil (It’s not easy): Navigating the Split Seams, Cracks and Crevasses of a Chicana Feminst Narrative”についても論じている。

第4週 “Digital Databases”

データベースについて、特にアクセシビリティに関する問題を指摘している。また、アーカイブ資料のデジタル化の重要性、OCRの入門解説、オーディオ・ヴィジュアルアーカイブの急増等についても論じている。

第5週 “Museums and Digital Tools”

歴史をめぐる議論への市民の参加を促すために、博物館・美術館がどのようにデジタルツールを利用すればよいか、その方法を論じている。博物館関係資料のデジタル化とその公開等。

第6週 “Amplifying Voices Through Social Media: My Experiences with Oral Histories and Social Media Platforms”

オーラルヒストリーとソーシャルメディアは現在どのような関係にあるのかをテーマに、自身の関わっているプロジェクト等を検証。

第7週 “Rewriting History Post Monograph”

執筆者はインディアナ大の図書館員。デジタルフォーマットでの歴史研究の成果公表における課題の検証をおこなっている。

第8週 “Professional Development”

DHだけに限らないが、メンターとの良好な関係構築の重要性について論じたもの。