月別アーカイブ: 4月 2016

本の日はなぜ4月23日なのか?

今日4月23日は、ユネスコの定める「世界図書・著作権の日」(World Book and Copyright Day)である。これは1995年にパリで開催されたユネスコ総会で採択されたことによる。

World Book and Copyright Day
http://www.unesco.org/new/en/wbcd

この記念日が4月23日とされた理由は、総会での宣言文で次のように述べられている。

「本総会はミゲル・デ・セルヴァンテス、ウィリアム・シェークスピア、およびインカ・ガルシラソ・デ・ラ・ヴェガが没した同じ日の4月23日を「世界・本と著作権の日」とする考えを採択し、ここに宣言することを勧告する。」
(訳は↓のリンク先の日本書店商業組合連合会のページから)

この「世界図書・著作権の日」の制定は、スペイン側からの提案によるものらしく、セルバンテス、インカ・ガルシラソとスペイン及びラテンアメリカ関係の人物名が記載されているからもそれをうかがい知ることができる。

もちろんスペインでもこの4月23日は、セルバンテスが亡くなった日として、「本の日」(Día del Libro)と定められている。今年は、亡くなった1616年から400年の記念として、スペインでは大々的な催しが一年を通じて開催されているし、セルバンテス関連のデジタルアーカイブもずいぶん登場している。

が、そもそも1926年に本の日が制定された当初は4月23日ではなく別の日だった。察しの良い方なら思いつかれるだろうが、セルバンテスの誕生日とされた10月7日が、本来、本の日だった。

この本の日を定めた1926年2月6日の勅令がなかなか興味深い。2月9日の官報(Gaceta de Madrid)を見ると、Eduardo Aunos労働・商業・産業大臣の解説があり、それは次のように始まる。

「イスパノアメリカの偉大なる諸民族の思想、伝統、そして生を広め表現する不滅にして聖なるものは、スペイン語の図書である…」

  • Real decreto disponiendo que el dia 7 de Octubre de todos los anos se conmemore la fecha del natalicio del Principe de las letras espanolas, Miguel de Cervantes Saavedra, celebrando una fiesta dedicada al libro espanol. Gaceta de Madrid num. 40, de 09/02/1926, paginas 707 a 708. Departamento: Ministerio de Trabajo, Comercio e Industria.
    https://www.boe.es/datos/pdfs/BOE//1926/040/A00707-00708.pdf

そして勅令の第一条では、毎年10月7日を、スペイン文学の王たるミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ生誕の日を記念して、スペイン語の図書の日として祝うことが定められている。続く条文では、アカデミーや大学、学校等での行事開催、図書館における図書購入と整理、地方の県議会による「公共図書館」(biblioteca popular)の毎年の設置、コンクールの開催、本の値引き販売等について記されている。

当時スペインからラテンアメリカへの出版市場開拓が目指されていたらしいので、上記解説のようなラテンアメリカを含めた表現になっているのだろうか。また、「世界図書・著作権の日」の宣言とは異なり、スペイン、あるいはスペイン語という国民性が全面に押し出された書き方になっているし、となるとカタルーニャ(語)やバスク(語)等にとって本の日の扱いは?といった疑問もわいてくる。さらに、各条文で定められた内容の運用実態は、出版史や図書館史、読書史などが絡み合う領域として色々と関心をそそられる。

それらの疑問はさておき、それでは、なぜ本の日は4月23日に改められたのか。

この日付変更もやはり勅令で定められ、1930年9月7日に発せられた。同法解説にはその理由が述べられているが、そもそもセルバンテスの誕生日が10月7日ではなかったかもしれないというのだ。

  • Real decreto disponiendo que la fiesta anual dedicada al libro espanol, establecida por Real decreto de 6 de Febrero de 1926, se celebrara anualmente el dia 23 de Abril, fecha del aniversario de la muerte de Miguel de Cervantes Saavedra; y que en el ano actual se celebre todavia el dia 7 de Octubre. Gaceta de Madrid num. 252, de 09/09/1930, pagina 1442.
    Departamento: Presidencia del Consejo de Ministros
    https://www.boe.es/datos/pdfs/BOE//1930/252/A01442-01442.pdf

セルバンテスが生まれた当時、洗礼を行う日と誕生日の間に日をおかないはずということで、洗礼日の記録をもとに誕生日が10月7日とされたが、どうも実際に生まれたのは9月29日(サン・ミゲルの日)らしいという。また、先行研究によると、9月の学校授業開始に近い時期ということもありテキストばかりが売れてしまうのを避けたいという思惑や、季節的にもあるのほうが望ましかった、という理由も挙げられている。

ということで、セルバンテスの亡くなった日とされた4月23日に移されたという。

ところで、この4月23日は日本では「サン・ジョルディの日」(Diada de Sant Jordi)として知られている(というほど知られていない)。

サン・ジョルディ(聖ジョージ/聖ゲオルギウス)の詳細はほかに譲るが、サン・ジョルディは1456年にカタルーニャの守護聖人とされ、15世紀にはサン・ジョルディのの亡くなった4月23日に愛する人にバラを贈る風習が始まったという。(サン・ジョルディ伝説には竜を殺した血からバラが咲くくだりがあるが、伝説が先か、風習が先か…また、サン・ジョルディの日の行事は連綿と続いていたわけではなく、19世紀における「発見」もあったようだが、それはまた今後の課題)

ともかくも、4月23日のサン・ジョルディの日に「本を贈る」という行為が結びついたのは、以上の通り本の日がサン・ジョルディの日と重なった1931年より後のことということになる。

本の日/サン・ジョルディの日は、その後のどのように結びつき、そしてスペイン第2共和政→内戦→フランコ独裁期→民主化とどのような変遷をたどったか、それに出版・書店・図書館等の各界はどのように参加しどのような恩恵を被り、スペイン国内・ラテンアメリカ等の地域的にもどのような違いがあったのか、そしてユネスコの採択の場ではどのような政治が行われたのか。あれこれとわいてくるこれらの疑問は今後の課題として、それでもやはりわからないのは4月23日が本の日とされ続けている理由である。というのも、現在ではセルバンテスが亡くなったのは4月22日とされているのだから。

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Historiografía Digitalを構築中: #DayofDH2016 に寄せて

今日、2016年4月8日は、デジタル人文学の日”Day of DH 2016“とされている。このDayofDHは、世界のDH研究者らが「実のところDH研究者は何やってるのか?」を紹介・アピールする日とされているので、自分も現在作っているDHサイトのことを書いてみようと思う。

筆者の専門は、スペイン近代史、それも史学史であり、構築中のサイト”Historiografia Digital”もそのスペイン史学史に貢献しうるようなものを目指している。

Historiografia Digital (まだ「箱」だけ)
http://historiadigital.sakura.ne.jp/historiografiadigital/project/

このサイトでは、19世紀のスペインにおける歴史家の書籍や論文、講演記録等(もちろん著作権の切れたもの)のテキスト化をクラウドソーシングで行い、研究利用可能なテキストデータを作ること、そしてそれを分析することを目的としている。

スペインは、2012年から2014年まで、ヨーロッパ諸国の中でもEuropeanaへの提供は2番目に高いらしく、デジタル化資料もそこそこ多い。むろん史学史で扱うようなデジタル化史料も多い。しかしながら、その提供データを見ると、OCRによるテキストデータはかなりの誤認識があり、そのままでは分析やテキスト検索では信頼できないレベルのものばかりである。

誰か何とかしてくれないものかとぼんやり考えていたが、このままでは単なる待ちぼうけになりそうなので、停滞したこの状況を動かすべくあまりにも小さいがこのようなサイトを作ろうと思った次第である。また、デジタル化公開元の機関は、筆者の研究関心を満たすようなデータの整理と公開はしてくれないだろう、という予想もあった。もちろんデータは提供元のCCライセンスに準じて公開するつもりであるし、可能であればスペイン側の研究機関や図書館などにも渡せられればと思っている。

サイトは、Sakuraインターネットにサーバーを借りて、OmekaをベースにScripto等のプラグインを追加して作っている。本当は今日リリースを発表すべく準備を進めていたが、残念ながら他の仕事もあって間に合わなかった。

実際に作ってみる/作り始めてみると、いくつか思うことがある。

一つ目は、「歴史家」とはだれか、どこまで含めればよいのか、という史学史上の問題。

職業研究者の登場は19世紀後半を待たねばならないが、それまでにも多数の歴史学に関する著作は発行されている。では、”Historia”とタイトルにあればよいのかというと、そう単純にもいかない。そもそもサイト構築の趣旨が、信頼できるようなテキストデータを作ることだけでなく、さらにDistant Readingのように巨視的に史学史を眺めることにあるので、そうなるとその視野をどこまで拡大させればよいかわからなくなる。歴史家とは何か、というのは結構古い問題だと思うが、自分の研究関心では限定的な捉え方をするのではなく、なるべく広く揺らぎのある形で包含する必要だろうと思う。その意味で、デジタルヒューマニティーズは–よく言われることだが–新しい視角を提供するものといえる。

二つ目は、自分独自のコレクション作成の難しさである。

「歴史家」の定義の揺らぎはさておき、ひとまず有名人の歴史書を扱おうとした場合でも、その史料の捜索に結構手間取った。利用可能なデータを検索する難しさである。

例えば、ひとまずコレクションの1つとして作成したModesto Lafuenteは、『スペイン全史』(Historia General de España )を著した、スペイン近代史学史上の重要人物である。もちろん、著作はデジタル化されているのだが、調べてみると初版本のデジタル化が見つからない。いかにも初版本と思われるようなメタデータの書きっぷりであっても、中身を見てみると刊行年がLafuenteの死後のものもあったりした。さしあたりいろいろ「放り込む」ようにしようと思う。

また、いろいろなデジタルアーカイブからデータを引き抜いて、自分のコレクションを作成することの難しさもある。これには、さしあたりZoteroを経由してデータをOmekaに移すようにしてみるつもり。

現状は、作りながら考える、考えつつ作るしかないが、本当に正式公開できるか、運用していけるのかどうかは正直不安なところではある。が、一人でやっているので、あまり深刻に考える必要もないだろう。

そんなわけでDayofDH2016の日は暮れていく。

 

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