歴史研究者向けのアプリ・ウェブツール – AHAのPinterestから

先日の、newclassicの記事「【決定版】研究者のためのツール10選!【研究ライフを劇的に向上!?】」に触発されて。

少し前の人文情報学月報にも書いたが、アメリカ歴史学協会(AHA)が、公式Pinterestのサイトで、”There’s an App for That?!”と”A Digital Tool Box for Historians”という2つのボードを公開している。

“There’s an App for That?!”は、歴史研究者向けにアプリをまとめたもので、”A Digital Tool Box for Historians”は、歴史研究者向けにウェブツールやソフトウェアを紹介したもの。前者はAHAのブログで複数回登場していた記事で以前にも紹介済み

A Digital Tool Box for Historians (1)

二つのボードの内容は「歴史研究者向けに」とはいえ、TIMEやLA Times等の新聞アプリや天気予報アプリやSecond Life(!)とかMendeley等も登場しているので、歴史学に特化したものではない。ただ、AHAのような団体がこういうものもあるんですよとまとめて紹介するのは、「デジタルなるもの」へのハードルを下げるうえでもよいことだと思う。

ちなみにAHAの公開ボードは全部で9つあり、そのほかにも面白そうなのがいくつかある。Pinterestのアカウントをお持ちの方はぜひフォローを。

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むしろ歴史学に特化したようなアプリってないのだろうか。

あるいは、作るとすればどんなアプリがよいだろうかなどと考えてみる。

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古文書学・写本研究を学ぶための無料オンラインコース“InScribe”

2012年12月18日に、イギリスのIHRや英語学研究所(IES)等の10の研究機関を含むSchool of Advanced Studyが、古文書学・写本研究のためのオンラインコース“InScribe”を作成し、History SPOTで公開した。

現在のところイントロ部分のみリリースされているだけで、そこではコースの概要と古文書学のイロハの解説が解説されている。今後、写本の起源や作成年代の特定のためのスクリプトスタイルや写本の装飾の講義モジュールが追加される予定とのこと。ちなみに、コースは文字中心だが、ところどころ動画や理解度チェック用のクイズなんかも含まれているようだ。

なお、閲覧にはログインが必要だが、History SPOTで無料で作成できる。

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研究者養成用の歴史教育をオンラインにする場合の参考事例として。

歴史「叙述」から歴史「動画作成」へ、という記事

歴史叙述の形態というか、歴史学の発信という観点から色々思うところがあったので、とある記事をご紹介。

2012年3月12日のThe Chronicle of Higher Educationに“Every Monograph a Movie”という記事が掲載されている。執筆者はアイオワ大のMarshall Poe氏。

記事の内容は、大雑把にいえば、歴史家は歴史「叙述」から歴史「動画作成」へ力をいれるべきではないか、という問題提起である。以下記事内容をざっくり紹介。

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記事冒頭で、氏は同僚のオーストリア人の、「オーストリアでは歴史学は物理や化学等と同列で科学とみなされている。だから、研究者は研究成果を一般市民に読んでもらうことを別に期待していない」という話を紹介する。またその同僚は、「反対にアメリカでは歴史学は科学とみなされておらず、半分学問半分文学だ」とも指摘している。

Poe氏もその指摘を「まあその通り」として認めている。そして、自分の考えではと断りを入れたうえで、一般市民に読んでもらえるような本を書くのは(英語圏の)歴史家にとっては必要なことである、なぜならリベラルな善き市民は民主主義の繁栄にとって不可欠だからだ、と述べている。

しかし、歴史書を書いても市民が本を読まなくなったことが問題だと指摘している。だがそれでも、市民が好きな耳と目に訴える方法でなら歴史を伝えるのは可能であり、今ならそれもできると指摘し、歴史動画作成へと話が移る。

ここで実際にPoe氏が実践した、写真から動画を作って、それをYouTubeに公開するという授業等を紹介している。そしてそれを踏まえ、動画作成に歴史家が関わるべき理由、受け手側にどのような影響があるか、という問いに答えている。

動画作成を行うべき理由として挙げられているのは、 「学生が動画作成等のスキルを習得できる」「学生がテキストを精読するようになる」「学生の批判的思考の訓練となる」の3つ。いずれも歴史学は役に立たないのではないかと批判されるポイントに対する応答とされている。

また、受け手側への影響については、蓄積事例がないので何とも言えないとしつつも、だが動画公開をすると多くのコメントが付いているので、影響はあるのだろう、としている。

最後に、歴史「叙述」から歴史「動画」へ取り組まないと、読まれないままになってしまうよ、と結ばれている。

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以上が記事の内容だが、要するに、今までのように本を買いていても誰にも読まれないんだから、ちゃんと見てくれる(可能性の高い)動画を作ることを考えようよ、そうすれば「歴史は役に立たない」という議論にも対抗できるんだし、ということだろう。

デジタルヒューマニティーズ、あるいはデジタルヒストリーの登場が、歴史叙述をどう変化させるかを考えていたので、こういう議論は興味深い。

だがこの話は、歴史学は研究者のためにあるものという立場の人にはあまり意味をなさない。また、そもそも市民に向けて語ることと研究者向けに語ることは両立するはず。むしろここで問われるべきは、市民向けの活動あるいはパブリックヒストリーが、研究業績上、研究者向けの活動に比してなぜ低く評価されるのか、またその妥当性はどうなのかということだろうか。

歴史学専攻の学生は何を学ぶべきか、何ができるようになるべきか? アメリカ歴史学会が全米規模で統一指針を構築する“Tuning Project”を開始

2012年2月13日に、アメリカ歴史学会(AHA)がLumina Foundationの助成のもと、“Tuning Project”という全米規模の新たなプロジェクトの開始を発表している。

このTuning Projectは、大学での歴史教育・歴史研究の核とは何か、歴史学専攻の学生は何を学ぶべきであり、学位(準学士、学士、修士)取得時に何ができるようになっていなければならないかについて、全米規模で一つの指針を構築しようというものである。プロジェクトの主担当は、Anne Hyde氏 (Colorado College)と Patricia Limerick氏(University of Colorado Boulder) の二人で、国内60以上の大学から研究者が参加するという。

より具体的に、プロジェクトの目的として以下の3点が挙げられている。

①歴史学の核となる能力、思考様式、必要とされる知識を示す。

②学生・企業・文化に対し、歴史学固有の価値を表現するための明確かつ共通の言語様式を作り上げる。何を、そしてなぜ学んでいるのかをはっきりと自覚できる学生が、その後の生涯学習やキャリア形成、市民としての社会参加に学問をよりよく結びつけられるようにする。

③歴史研究者が、教育者としての成果測定において、自組織で使われるシステムを作れるような全米規模の枠組みを提供する。

このような、大学における歴史学の意義を国内で統一させようという「チューニング」は、10年ほど前にヨーロッパで始まったもので、以来世界的に広まっているものの、アメリカでは地方レベルにとどまるという。

今後は、2012年6月と2013年2月にプロジェクト参加研究者が会合をもち、歴史学を特徴づけるスキルや方法論等についてのドラフトを作成し議論するとともに、講義の場での実践を経て練り上げられる予定とのこと。

AHA会長のJames Grossman氏は「このプロジェクトはAHAが力を入れている、歴史研究者の間の、および歴史研究者と一般市民との間のコミュニケーション促進の一部をなすものである。」とコメントしている。

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歴史教育の縛りになってはまずいだろうが、歴史学を修めるとこういうことができるんですよ、と示すには必要なことと思う。興味深いプロジェクト。

歴史学者になるための歴史学方法論・認識論を伝えるブログプロジェクト“Devernir historien-ne”

学部生までの「歴史を学ぶ」という行為と、修士以上の「歴史を研究する」という行為をつなぐことを目的に、歴史学者にとって必要な歴史学方法論や認識論に関する情報等を提供しようというブログ。

この“Devenir historien-ne”は、フランスの人文社会科学系ブログのプラットフォーム“hypotheses.org”の中の一つであり、社会科学高等研究院の研究者Emilien Ruiz氏らが運営しているようだ。

なお、Emilien Ruiz氏はほかにも、歴史学におけるデジタル技術の活用をテーマとした“La Boite a Outils des Historiens”というブログも運営しているようで、Digital Humanitiesの観点からはそちらも取り上げておきたい。

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まだ中身をじっくり読んでないが、今後参考にしたいサイト。